あいびき
……一つの小径が生い茂った花と草とに掩われて殆ど消えそうになっていたが、それでもどうやら僅かにその跡らしいものだけを残して、曲りながらその空家へと人を導くのである。もう人が住まなくなってから余程になるのかも知れぬ。それま… 続きを読む あいびき
……一つの小径が生い茂った花と草とに掩われて殆ど消えそうになっていたが、それでもどうやら僅かにその跡らしいものだけを残して、曲りながらその空家へと人を導くのである。もう人が住まなくなってから余程になるのかも知れぬ。それま… 続きを読む あいびき
M市の一隅にある城山の小高い丘を今私は下りて来た。初夏の陽はもう落ち尽して、たゞその余光が嶮しい連山の頂を、その雪の峯を薄紫に照してゐた。眼の下の街々は僅かに全体の輪郭だけを残して、次第々々に灰色の空気につゝまれて行つた… 続きを読む 愛は、力は土より
恋愛は、実に熱烈で霊感的な畏ろしいものです。 人間の棲む到る処に恋愛の事件があり、個人の伝記には必ずその人の恋愛問題が含まれてはいますが、人類全般、個人の全生活を通観すると、それらは、強いが烈しいが、過程的な一つの現象と… 続きを読む 愛は神秘な修道場
一人の男と一人の女とが夫婦になるということは、人間という、文化があり、精神があり、その上に霊を持った生きものの一つの習わしであるから、それは二つの方面から見ねばならぬのではあるまいか。 すなわち一つは宇宙の生命の法則の見… 続きを読む 愛の問題(夫婦愛)
夫の手記 私はさっきから自動車を待つ人混みの中で、一人の婦人に眼を惹かれていた。 年の頃は私と同じ位、そう二十五六にもなるだろうか。年よりは地味造りで縺毛一筋ない、つやつやした髷に結って、薄紫の地に銀糸の縫をした半襟、葡… 続きを読む 愛の為めに
私の友人、室生犀星の芸術とその人物に就いて、悉しく私の記録を認めるならば、ここに私は一冊の書物を編みあげねばならない。それほど私は彼に就いて多くを知りすぎて居る。それほど私と彼とは密接な兄弟的友情をもつて居る。 およそ私… 続きを読む 愛の詩集
みまかりたまひし父上におくる いまは天にいまさむうつくしき微笑いま われに映りて、我が眉みそらに昂る……。 私の室に一冊のよごれたバイブルがある。椅子につかふ厚織更紗で表紙をつけて背に羊の皮をはつて NEW TESTAM… 続きを読む 愛の詩集
室生君。 涙を流して私は今君の双手を捉へる。さうして強く強くうち振る。君は正しい。君の此詩集は立派なものだ。人間の魂で書かれた人間の詩だ。さうしてここに書かれた君の言葉は尽く人間の滋養だ。君の甦りは勇ましい。さうして純一… 続きを読む 愛の詩集
ちちのみの父を負ふもの ひとのみの肉と骨とを負ふもの きみはゆくゆく涙をながし そのあつき氷を踏み 夜明けむとするふるさとに あらゆるものを血まみれにする 萩原朔太郎
私はいつも自分にだけ関心をもって生きてきたのだ。自分にとって、その他に確実なものがなにもなかったので、それを自分なりの正義だと思っていた。私はいつも自分を規定し、説明し、自分の不可解さを追いかけ、自分をあざけり軽蔑してく… 続きを読む 愛のごとく
【小引】 アイヌの俚謡等にて代表的なるものとの御註文である。代表的といふ語をそのものとして最も特色的であるとの意味に取るならば問題は少しばかり難しくなるが、ここでは極めて通俗的に解して、最もよく知られてゐる、或は最もあり… 続きを読む アイヌ族の俚謡
座長(小林高四郎)では知里さんにお願いします。 知里(真志保)私ははじめ、言語から見たいわゆる貞操帯の起源、というような演題でお話しようかと思い、いささか資料も準備して来たのでありますが、はからずも先刻に河野広道氏がその… 続きを読む アイヌ宗教成立の史的背景
アイヌ語やアイヌ文学を扱っていると、われわれの予想もしなかったような考え方にぶつかって戸惑いするのは毎度のことである。 例えば氷をアイヌ語では「ル」(ru-p)と言う。「とける・もの」ということである。日本語の「コオリ」… 続きを読む アイヌ語のおもしろさ
アイヌ語の研究にかけては、世界的な権威として、その名声をうたわれているジョン・バチラー博士が、アイヌ語で説教をして、アイヌを感心させたという話が伝えられております。明治の中頃、といえば、アイヌがまだアイヌ語を使って暮らし… 続きを読む アイヌ語学
私は母の愛というものに就いて考える。カーライルの、母の愛ほど尊いものはないと云っているが、私も母の愛ほど尊いものはないと思う。子供の為めには自分の凡てを犠牲にして尽すという愛の一面に、自分の子供を真直に、正直に、善良に育… 続きを読む 愛に就ての問題
芥川さんでしたか「私達の生活の側に天国をもって来るとしたら、きっと退屈してしまって、死んでしまいたくなるだろう」って云われたように覚えてますが、それは私も同感に思います。ですから理想などというものは、実現されるまでのその… 続きを読む 愛と平和を理想とする人間生活
兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを庇う鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい。弟妹たちと映画を見にいって… 続きを読む 愛と美について
「真の犬は、マダム、大元を辿ると ゴールデン・ジャッカル、Canis aureus だったのです…… 彼は愛し愛されねばなりません。 さもなければ死んでしまいます。」 「ロシア犬、生きたまま月に到着」ドラッグストアの店先… 続きを読む 愛と月の犬