ガラスの棺

『ガラスの棺』の解説

  • タイトルガラスの棺
  • 著作者グリム兄弟
  • 書籍名ガラスの棺
  • 制作年?
  • 製作国不明
  • 言語不明
  • 著作権状態パブリック・ドメイン
  • 『ガラスの棺』の全文

    貧しい仕立て屋だからと言って、大それたことを成し遂げることができないとか、高い地位に着くことはできない、などと、だれも言ってはいけない。必要なことといったら、正しい場所に行く、ということだ。そして、幸運の持ち主である、ということが、最も重要なことだ。

    ごく普通の手際のよい仕立て屋の見習いが、あるとき、旅に出かけた。大きな森に入って行ったけれど、道がわからなくて、迷ってしまった。夜も深まってきて、孤独で寂しいなか、どうしても寝床を探さなければならない。もちろん、やわらかい苔の上だと、いい寝床になるにちがいないが、野生の獣に襲われてはいけないので、そこでは、安心して休むことはできない。とうとう意を決して、木の上で夜をしのぐことに決めた。

    仕立て屋は、高い樫の木を探し出して、そのてっぺんに登った。ありがたいことに、仕立て屋は、自分の大型アイロンを持ち合わせていた。というのも、そうでなければ、木のてっぺんをビュービュー吹き抜ける風に吹き飛ばされていたところだ。

    数時間暗闇で過ごしたのち、怖くてぶるぶる震えていると、すぐそこに、かすかな光が見えた。仕立て屋は、そこは人間が住んでいるところ、木の枝にいるよりもより良く過ごせる場所、に違いないと思ったので、注意して木を降り、明かりのほうへ歩いていった。

    光は葦の茎と井草が編み合わさって出来ている小さな小屋に続いていた。

    仕立て屋は、思い切ってドアを叩いた。ドアが開いた。いろんな色の継ぎはぎのある上っ張りを着た白髪のおじいさんが、出てくるのが、中からの明かりで見えた。

    「あんた誰だい、なんの用だ。」と不満そうな声でおじいさんは尋ねた。

    「わたしは貧しい仕立て屋です。」仕立て屋は答えた。「野宿はとても恐ろしくて、、、どうかどうかお願いです。朝まであなたの小屋に泊めてください。」

    「他を当たってくれ。」おじいさんはぶっきらぼうな声で答えた。「わしは、そこらでふらふらしとる奴らとは関わりたくはない。他の寝床を探しに行ってくれ。」

    おじいさんはこう言って、小屋に戻ろうとしたのだが、仕立て屋がおじいさんの上っ張りの端をあまりにもしっかり握って、あまりにも悲しそうにお願いしたので、おじいさんは、見た目ほどそんなに意地の悪い人ではなかったので、とうとう、気持ちを和らげて、小屋の中に仕立て屋を入れてやった。そして、おじいさんは仕立て屋に食べ物を与え、部屋の隅にあるふかふかの寝床に仕立て屋を案内した。

    疲れた仕立て屋は、寝かしつけてもらう必要もなく、朝までぐっすりと眠った。しかし、起きようとも思っていなかった仕立て屋だっただろう、もしこの騒がしい音に目を覚まされなかったら。凶暴な叫び声や、唸り声が、薄い小屋の壁を突き抜けてくる。仕立て屋は、なんだか勇気が湧いてきた。

    起き上がり、急いで服を着て、素早く外へ出た。小屋の近くで見たものは、大変大きな雄牛と美しい牡鹿だった。二匹は今まさに、恐ろしい決闘を始めようとするところであった。二匹はあまりにも凄まじい勢いでぶつかりあった。どしんどしんという足踏みで、地面が震えた。

    叫び声は当たり一面にとどろいた。

    長い間、どちらが勝利するのかは分からなかったが、ついに、牡鹿が角を敵の身体に突き立てた。すると雄牛は酷い唸り声をあげて、地面に倒れ込んだ。
    鹿に二度三度蹴られて、息の根が止ってしまった。

    仕立て屋は、驚いてその戦いを見てたのだが、動けずにその場に突っ立っていた。そのとき、牡鹿が仕立て屋のほうに向かって猛烈に突進してきた。

    仕立て屋が逃げる前に、牡鹿は仕立て屋をその立派な角で持ち上げた。仕立て屋はあれこれと考えている暇もなかった。というのも、牡鹿はものすごい速さで、切り株を超え、岩を超え、山を超え、谷を越え、森を駆け抜け、草原を走り抜けて、びゅんびゅんと駆けていたからである。

    仕立て屋は角のてっぺんに両手でしがみついていた。仕立て屋はまるで飛んで行っているような心地だったが、とにかく運命に身を任せた。とうとう牡鹿は岩の壁の前で止まった。それから、やさしく仕立て屋を降ろしてくれた。仕立て屋は生きた心地がせず、気を取り戻すまでしばらく時間が必要だった。仕立て屋がある程度気を取り戻したとき、その牡鹿は、まだ仕立て屋の隣にいるのだが、自分の角を使ってものすごい力で岩にある扉を押した。

    すると、扉はぱーんと開いた。激しい炎が噴き出してきた。あとから分厚い煙がもくもくとやってくる。その煙で牡鹿の姿が見えなくなってしまった。仕立て屋はどうしたらいいのか分からず、この煙幕から逃れよう、人間のいるところにもどろうと、振り返った。このようにして仕立て屋がどうしようかと立っていると、岩の中から声が響いてきた。その声は仕立て屋に向けて叫んだ。

    「恐れずに入るがよい。邪魔なことはそなたには何も降りかかっては来ないであろう。。」

    仕立て屋はためらっていたが、不思議な力に導かれ、声に従って、鉄の扉を通り抜けた。そして、大きな広々とした広間に入っていった。広間の天井、壁、床はピカピカに磨き上げられた四角い石で出来ていた。それぞれの石には、仕立て屋に馴染みのない刻印があった。仕立て屋は感嘆の気持ちですべてのものを見つめていた。そして、戻ろうとしたときに、またあの声が自分に語りかけてくるのが聞こえた。

    「この広間の真ん中にある石の上に乗るのだ。汝にはすばらしい幸運が待ち受けている。」

    仕立て屋はすでにどんと構えていたので、難なくその声に従った。石の上に立つと、足元で石がぐらつき始め、ゆっくりと深く沈んでいった。石が再びピタッと止まると、仕立て屋はあたりを見まわした。すると、大きさが前のものと似た広間にいるのに気が付いた。しかし、ここでは、さらに、感嘆して目を見張るものがあった。

    壁の窪んだところには、いくつも掘り込みがあって、透明なガラスのびんが置いてある。その中はいろんな色の液体や、青っぽい気体で満たされていた。

    広間の床の上には、二つの大きなガラスの箱がお互いに反対向きに置かれてあった。それらはあっという間に仕立て屋の好奇心を駆り立てた。一つの箱のほうにいくと、仕立て屋がその中に見たのは、農場や馬小屋、家畜の小屋、他にもたくさんの素晴らしいものに囲まれている、お城のような、見た目の立派な建物だった。

    全てのものがとても小さいのだが、とても慎重に、精巧に作られている。非常に精密に器用な手法で本物そっくりに作られているようだった。

    仕立て屋は、この世にも珍しいものをしげしげと観察して、しばらくは目を背けることはなかっただろう、再びあの声が響いてこなければ。

    その声は、仕立て屋に、振り返って反対側に置いてあるガラスの箱を見るようにと、命令した。その中に、とても美しいお嬢さんが入っているのを見て、仕立て屋は、なんと驚嘆したことか!

    お嬢さんはまるで眠っているかのように、横たわっていた。大切なものを覆うように長い金色の髪の毛でお嬢さんは包まれていた。お嬢さんの目は固く閉じられてあったが、顔色の鮮やかなこと、吐息に合わせてひらひらと動くリボンで、疑いなく、お嬢さんは生きていることがわかる。

    仕立て屋は、その美しさに心を奪われて、見とれていた。すると、突然、お嬢さんは目を見開いた。そして驚いていたが、喜びいっぱいに、仕立て屋を見つめた。

    「あらまあ!」お嬢さんが叫んだ。「すぐそこにわたしの救い主様がいらっしゃいました。早く、早く、この監獄からわたしを救い出してください。あなたさまがこのガラスの棺のかんぬきを引き抜いてくれたら、わたしは自由になります。」

    仕立て屋は、すぐにそれに従った。するとお嬢さんは素早くガラスの蓋を持ち上げて、外に出て、広間の隅に急いで行った。そこでお嬢さんは大きなマントを羽織った。

    それから石の上に座って、若者に、こちらに来るようにと命令した。それからお嬢さんは仕立て屋の唇にやさしくキスをして言った。

    「救い主様、ずっとお待ちいたしておりました。天があなたさまをここへお導きになったのです。そしてわたしの悲しみを終わらせてくださいました。まさにこの悲しみが終わったこの日は、あなたさまの幸せが始まる日なのです。あなたさまは、天によって定められたわたしの夫なのです。あなたさまは途切れることのない喜びの人生を送るのです。わたしの愛を受けて、この世の宝すべてで溢れんばかりの富に恵まれます。こちらに、お座りになって。どうか、わたしの身に起こったことを聞いてください。」

    「わたしは、裕福な伯爵の娘ですの。両親は、わたしがまだ幼いころに亡くなりました。遺言で、わたしは兄にゆだねられました。わたしはその兄に育てられました。わたしたちはとてもお互いに愛し合っていました。それにわたしたちは考え方や好みもよく似ていたので、結婚しないで、死ぬまで一緒にいようと固く誓っていました。わたしたちの家にはいつもお客様がありました。近所の人や友人がよく訪ねてきました。わたしたちは誰でも手厚くもてなしました。ある晩がやってきたのです。見知らぬお客様がわたしたちの城に馬に乗ってやって来ました。そして、次のところに行くことができない、といって、その夜、泊めてくれるよう、頼んできたのです。

    わたしたちは、快く丁寧に頼みを聞き入れました。そのお客様は、とても感じが良く、夕食の間、いろいろなお話を交えてわたしたちを楽しませてくれました。わたしの兄は、そのお客様のことをとても気に入ったので、もう二、三日ここで過ごされるよう、お客様にお願いをしたほどなのです。お客様は戸惑っていたようでしたが、そのことに同意したのです。」

    「わたしたちは、夜遅くなって、ようやく席を立ちました。お客様には、お部屋が案内されました。わたしはというと、ひどく疲れていましたので、ふかふかのベッドに体を沈めようと急いで部屋へいきましたの。ほんの少しの間うとうととしたかと思うと、かすかな心地良い音楽でわたしは目を覚ましました。わたしはその音がどこから来ていたのか分からなかったものですから、隣の部屋で寝ていた女中を呼びつけようと思いましたの。でも、驚いたことに、得体の知れない力によって、わたしの声は奪われていて、まるで胸の上に山でものしかかってきているように、重たく感じ、うんともすんとも言うことができませんでした。」

    「そのとき、固く締められた二重の扉をすり抜けて、あのお客様がわたしの部屋に入ってくるのが、夜の灯りで見えました。その人はわたしのところにきて言いました。意のままに操れる自分の魔法の力で、わたしを起こすため、あの音楽を鳴らしたのだと。結婚を申し込むつもりで、固く締まった扉を通り抜けてきたのだと。けれども、わたしはその人の魔術にひどい嫌悪感を抱いていましたので、なにも答えませんでした。その人はしばらくの間、動くことなく立っていました。その人は明らかにわたしの承諾の返事を待っているようでした。でも、わたしは黙っていました。その人は怒って、わたしの傲慢さを罰する方法を探し出して、復讐する、と言い放ちました。そして、部屋から去っていったのです。わたしはとても不安な夜を過ごしました。明け方にやっと少し眠っただけでした。朝目覚めると、兄のところへと急ぎました。でも、部屋に兄はいませんでした。付の者が、兄は夜明け前にお客様と狩りをしに、馬で乗って行ったといいました。」

    「すぐに悪い予感がしました。素早く着替えて、自分の馬に鞍をつけて、召使いを一人だけ連れて、森のほうへ大急ぎで駆けていきましたの。ところが、その召使いは馬もろともこけてしまって、わたしについてくることができませんでした。というのも、召使いが乗っていた馬は足の骨を折ってしまっていたのです。わたしは止まることなく、先を急ぎました。そして、数分後にあのお客さんが綱で繋いだ美しい牡鹿を連れてわたしのほうへ向かってきているのが見えました。わたしはその人に、兄をどこに置いてきたのか、その牡鹿をどうやって連れてきたのか尋ねました。その牡鹿の大きな瞳からは涙が流れ出ているのが見えました。わたしに答える代わりに、その人は大声で笑い始めました。わたしはこれに怒りが湧いてきて、その怪物目がけて銃弾をぶっ放ちましたの。でも弾はその人の胸を跳ね返って、わたしの馬の頭に当たってしまいました。わたしは地面に転げ落ち、あの男は、なにやら呪文のようなものを唱え、わたしは意識を失いました。」

    「わたしが再び意識を取り戻したとき、この地下の洞窟で、ガラスの棺に入っていることに気が付きました。あの魔術師がまた現れてきて、わたしの兄を牡鹿に変え、城と城に関するものすべてを自分の魔術で小さくしておいた、と言いいました。もう一つのガラスの箱にそれを閉じ込めたと言って、それから召使いたち、みんな煙に変えられていましたの、それをガラスの瓶に詰めたと言いいましたわ。そして、こう言ってきましたの。もしわたしがあの男の願いに応じたら、すべてをもとのように戻すことはいとも簡単なのだと。この容器を開けるだけで全てのものは再び元の状態に戻る、と。わたしが答えたのは、最初にわたしがやったように、黙ったままでいることでした。その男は、わたしをこの監獄に残して消えました。その中でわたしは深い眠りに入っていきました。」

    「わたしの目の前を通り過ぎていった夢の中の風景といったら、なんともわたしの励みになるものでした。夢の中では、若い男の人がやって来て、わたしを自由の身にしてくれるのです。それで今日、わたしが目を覚ましたとき、あなたさまがいました。そしてわたしの夢が叶うのをじっくりを見ました。夢で起こったのこりの風景も叶えてくださらない?最初にやることは、わたしのお城が入っているガラスの箱をあの幅の広い石に乗せて持ち上げることですわ。」

    石に荷が積まれると、石はお嬢さんと若者を乗せて、高く上がり始めた。上の広間の天井にある出口を通り抜けて、そこから、二人は外に簡単にたどり着くことができた。そこでお嬢さんは蓋を開た。

    すると、なんとも荘厳な眺めが目の前に広がっていった。閉じ込められていたお城、馬、農場の建物は、ぐーんと広がっていき、ものすごい速さで、もとの大きさまで大きくなっていった。

    この後、お嬢さんと仕立て屋は地下の洞窟に戻って、煙に満たされている容器を持ってきて、石を使って運び上げた。お嬢さんが瓶を開けるとすぐに、青い煙が勢いよく飛び出してきて、煙は生きている人間の姿に形を変えた。

    お嬢さんは、その人たちは自分の召使いやお付きの者たちであることが一目でわかった。そして、お嬢さんの兄が、彼は雄牛の姿をした魔術師を倒したのだが、森から人間の姿になってこちらにやってきたとき、お嬢さんはさらに喜んだ。そして、まさにその日、お嬢さんは、自分の夢で見たことに従って、祭壇の前で幸運な仕立て屋と結婚をしたとさ。

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