金の山の王様

『金の山の王様』の解説

  • タイトル金の山の王様
  • 著作者グリム兄弟
  • 書籍名金の山の王様
  • 制作年?
  • 製作国不明
  • 言語不明
  • 著作権状態パブリック・ドメイン
  • 『金の山の王様』の全文

    あるところに、一人の商人がいた。商人にはふたりの子どもがいる。一人は男の子、もう一人は女の子。子どもたちは二人とも幼く、まだ歩くことが出来なかった。

    ある日、どっさり荷物を積んだ、商人の二そうの船は海へ漕ぎ出して行った。商人のすべての財産が積んであるのだ。商人はそれを使って、一儲けしようと思っていた矢先、船は海に沈んでしまったという知らせが舞い込んできた。商人は金持ちになるどころか、貧乏人になってしまった。町の外れにあるたった一つの野原以外にはなにも残らなかった。

    不幸な気持ちを少しばかり紛らわそうと、商人はこの野原に出かけて行った。そして野原の中を行ったり来たり歩いていると、突然、小さなまっ黒の小人が商人の隣に立っていた。その小人は、商人に聞いた。なんでそんなに悲しげに思い詰めているのかと。そこで商人は答えた。

    「もしあなたが助けてくれるのなら、喜んでお話しましょう。」

    黒小人は答える。

    「それはわかりません。が、きっと助けてあげられましょう。」

    そして、商人は、自分の財産すべてが海の底に沈んでしまったと、残っているのは、この野原だけだと話した。そして小人は言った。

    「落ち込まないでください。あなたが約束してくれるなら、、、あなたが家に帰ったとき、最初にあなたの足にまとわりついてくるものを、わたしにくれますか、そしてそれを12年後にこの場所に持ってきてくれますか。そうしてくれるのなら、お望みのたくさんのお金をお渡しいたしましょう。」

    商人は思った。「なんだろうな、きっとうちの犬かな。」

    そのときは、自分の小さな息子のことは頭をよぎることはなかった。商人は同意して、黒小人に署名捺印をした証書を渡し、家に帰った。

    家に着くと、小さな息子はとても喜んだ。ベンチにつかまり立ちをして、とことこと歩み寄り、父親の足にしがみついた。父親はぎくっとした。というのも、あの約束を思い出したからだ。誓約書を交わして固い約束をしてしまったことを思いだした。それでも自分の金庫の中を見てみた。と、そこにはお金がなかったことを見て、あれは、ただの冗談だったんだな、と商人は思った。

    一か月後、商人は古いブリキの缶を集めて売ろうと思い、屋根裏部屋に上がった。商人がそこで見たものは、大変な量のお金の山。商人はうれしくなって、買い付けに出かけた。そして前よりも立派な商人になった。世の中ちょろいものだ、と商人は感じていた。

    そのころ、商人の息子はぐんぐん背が伸び、頭の回転の早い賢い子に成長していた。いよいよ12年後の期限が迫ってくると、商人はいよいよ、気が気ではなくなってきた。そして心の苦しみは表情に現れるようになった。ある日、息子は父親に「具合でも悪いのですか」と聞いたが、父親は何も言おうとしない。

    それでも息子は粘って長いこと聞いてくるので、商人はとうとう口を開いた。

    よく理解できていないまま、黒い小人にある約束をしてしまったのだと、それと引き換えにお金を受け取ってしまったのだと、父親は告白した。この取り決めに署名捺印してしまった、12年が過ぎ去ってしまったら、息子であるお前を差し出さなければならない、と同様に言った。

    それを聞いて息子が言った。「ああ、お父さん、心配なさらないでください。すべてはうまくいきます。黒い人はわたしにどうすることもありません。」

    息子は宗教的儀式を執り行う司祭に身体を清めてもらった。約束の時間がやってきた。父親と息子は野原へ一緒に出掛けた。着くと息子は野原に円を描き、父親とその中へ入った。まもなく黒小人がやってきた。そして父親に向かって言った。

    「約束したものを持ってきてくれましたか。」

    父親は黙っていたが、息子が口を開いた。「何がお望みですか。」

    黒小人が答えた。「そなたのお父さんに話があるのです。そなたではなく。」

    息子が答えた。「そなたは、わたしの父をあざむいて、間違った方向に導きました。証書を渡してもらいましょう。」

    黒小人が言った。「だめです。自分の権利を放棄するつもりはありません。」

    この後、三人は長い間話し合っていたが、とうとう全員が同意できる結論が出た。息子についての取り決めである。

    息子はもはや、小人のものでもなく、父親のものでもない。これから息子は小さな舟に乗る。そしてその舟を海の上に浮かべて流す。それから父親は自分の足を使ってその舟を蹴り出す。それから息子は海に放りっぱなしにしておく、という取り決めであった。

    息子は父親に別れのあいさつをした。そして小舟に乗った。父親は自分の足で船を蹴り出すだけである。しかし、蹴りだされた舟は、ぐわんとひっくり返ってしまった。舟底の竜骨はてっぺんを向いてその姿をあらわにした。父親は、とても息子は助かりっこないと思い込んでしまった。そして息子の死に深く悲しみ、家に帰った。

    しかしながら舟は沈んではいなかった。実は息子は舟の中にいた。静かにぷかぷか浮かんで遠くに進んでいた。こういうふうにして、長いこと浮かんでいた。

    見たこともないない岸に着いて、舟はやっと止まった。男の子は岸に上がった。すると、美しい城があるのが見えた。城に向かって歩いていった。城に入ると、魔法がかけられてある城であることが分かった。一つ一つ部屋を通っていったが、すべてすっからかんであった。しかし、最後にたどり着いた場所では、蛇が丸くとぐろを巻いて居座っていた。実は魔法にかけられているお嬢さんであったその蛇は、男の子を見て大喜びして言った。

    「ああ、救い主さま、ついに来たのですね、あなたのことを12年間ずっとお待ちしておりました。この城には魔法がかけられているのです。あなたは、この魔法を解くのです。」

    「どうしたらいいのですか。」と男の子は聞いた。

    「今晩、全身鎖に覆われている12人の黒い男たちがやってきます。その男たちはあなたさまに、ここで何をしているのか聞いてきます。しかし、黙ったままでいてください。何も答えてはいけません。それから、男たちのやりたいようにさせてやるのです。男たちはあなたさまを酷く苦しめてきます。ぶったり、刀で突き刺してきたりします。それをすべてさせてやるのです。ただ、絶対に話をしてはいけません。夜中12時になると男たちは去って行きます。二日目の夜は他の12人がやってきます。三日目は24人です。その男たちはあなたさまの首をはね落とします。でも12時になると男たちの力は終わります。もしあなたさまがすべてを耐え抜き、一言も口を聞かなけれは、わたしの魔法が解けるのです。わたしはあなたさまのところへ行きます、瓶に入った命の水があるのです。あなたさまの身体にその水をすり込みます。そうすれば、あなたさまはまた蘇ります。前と同じように、元気になるのです。」

    男の子は言った。「喜んで、そなたの魔法を解いて差し上げましょう。」

    そして、蛇のお嬢さんの言った通りの全ての事が起こった。黒い男は男の子がら一言も口を開かせることは出来なかった。三日目の夜、ついに蛇は、美しいお姫様になった。そしてその姫は命の水を持ってきて、男の子を再び生き返らせたのである。それから、姫は男の子の腕の中で口づけをした。城全体は歓喜に包まれた。この後、ふたりの挙式が祝われ、男の子は金の山の王となった。

    ふたりは幸せに暮らし、女王は元気な男の子の赤ん坊を生んだ。もう8年が過ぎたころ、王は自分の父親のことを思い出して、恋しく思い、父親を訪ねたいと思った。しかし女王はどうしても王を行かせようとしなかった。そして、女王が言うことには、

    「もうわかりますの。あなたが行ってしまったら、わたしは不幸になりますわ。」

    でも王は、ずっとしつこくこのことを話し続けて、ようやく女王は同意した。ふたりの別れの際に、女王は王に願掛け指輪をを渡してこう言った。

    「この指輪を持っていってください、指にはめておくのです。これがあれば、いきたいところへ、たちまちに行けますわ。だけど、これだけは約束してください。わたしをこの城から引き離してあなたのお父様のところへやるという願いには、使わないようにしてください。」

    王はそうする、と約束して、指輪をはめた。自分の故郷を思って、父親の住む町の外れに行きたいと願った。その途端に、王はその場所にいた。町を目指して歩いて行った。

    しかし、町の門にたどり着くと、門番たちは王を入れようしなかった。王は一風変わった、しかしながら、豪華な身なりをしていたからである。そこで王は羊の世話をする羊飼いがいる丘へ行き、その羊飼いと服を交換した。羊飼いのぼろの上着を着て、なんの問題もなく町に入ることができた。

    王が父親のもとへやってきて、素性を明らかにしたが、父親はその羊飼いが自分の息子であるとは、全くもって信じなかった。父親には、息子が一人いるのは確かだが、とうの昔に息子は亡くなったのだと、父親は言った。でも、父親は王のことを、貧しいあわれな羊飼いと思って、なにか食べるものをあげた。そこで羊飼いは両親に言った。

    「わたしは本当にあなたがたの息子です。わたしの身体になにか見分けられる目立った特徴かなにか、ないのでしょうか。」

    すると、母親が言った。「ありますよ。わたしたちの息子には右腕の下に、きいちごの形のあざがあったわ。」

    羊飼いはシャツをずらすと、見えたのは、きいちごのあざ。右腕の下にそれはあった。それで、羊飼いは自分たちの息子であるということを、もう疑うことはなかった。それから息子は父親に、自分は金の山の王で、ある王様の娘が、自分の妻であること、さらに、7歳の元気な息子がいる、と言った。すると、父親が言った。

    「そんなこと、本当なわけがない。ぼろの羊飼いの上っ張りをはおったのが王だ、なんて。」

    これを聞いて、息子はカッとなって約束のことも忘れて、指輪を回して、妻と息子の二人を自分のもとへ、、、と願った。その瞬間に、ふたりはもう目に前にいた。でも、女王はしくしく泣いて、王を責めた。女王は、王は約束を破って、自分はひどい災難を被った、と言った。

    王は、「うっかりやってしまったんだ、悪気はなかった。」と言って、妻をなだめようとした。妻は夫を信じたふりをしていたが、心の中では夫のことを恨んでいた。それから、王は、妻を町から連れ出して、野原のほうへ連れて行った。そして、小川に案内した。そこには、ちいさな舟が岸に打ち寄せている。

    そこで王は、言った。「わたしは疲れた。座っておくれ。おまえの膝の上でしばらく寝るよ。」

    王は、妻の膝の上に頭をのせて横になって、眠りに落ちた。王が眠っている間に、妻はまず、王の指から指輪を外して、それから、王の頭の下になっている足を引き抜いて、自分の履き物だけを、残しておいた。そして、自分の子どもを腕に抱えて、自分の王国へ戻る、と願った。

    起きたとき、王は、置き去りにされて、一人で寝っ転がっていた。妻も子どももいなくなっていた。指にはめてあった指輪も同じくなくなっていた。妻の履き物だけが記念品としてそこに残っていた。

    王は、思った。「もう戻ることは出来ない両親のところへ行けというのか。両親はわたしのことを魔法使いだと言ってくるだろう。ここを離れたほうがいい。わたしは、自分の王国につくまで歩き続けよう。」

    そうして王は、ここを出て、やっとのことで、とある丘にたどり着いた。その近くには、三人の巨人が立っていた。三人の巨人は、自分たちの父親の遺産を分配する方法が分からず、言い争いをしている。三人の巨人は、王が通り過ぎるのを見て、王に声をかけた。そして、小さい人間というのは、頭の回転が早い、自分たちの遺産分配をかわりにしてもらおう、と言った。ところが、その遺産というのは、一つ目は、剣であった。もし誰かがその剣を持って、「自分以外の首は、はね落ちよ。」と言えば、すべての首は地面に転がることになる。二つ目の遺産はマントであった。誰でもそのマントを羽織れば、姿が見えなくなってしまう。三つ目の遺産はブーツである。これを履けば、履いている人が思ったどんな場所でもたちまちに移動してしまう。そこで王は、「三つのものをわたしに渡してもらいましょう。これらが、まだいい状態であるかどうか、見て差し上げましょう。」と言った。

    三人の巨人はそのマントを手渡した。王がマントを羽織ると、王の姿は見えなくなり、一匹のハエに変身してしまった。再び元の自分の姿に戻ると、王は、

    「マントの状態は良いようですね。さあ、次は剣を渡してください。」

    と言った。すると三人の巨人は、

    「だめです。剣を渡すことなどできません。もしそなたが、自分以外の首は、はね落ちよ、と言ってしまえば、わたしたちの首がとんでいってしまいます。そして、そなたの首だけが残ることになります。」

    それにもかかわらず、木で剣を試すのみ、という条件で、三人の巨人は、王に剣を手渡した。王は、これをやってみると、木の幹は、まるでわらの葉っぱであるかのように真っ二つに切れた。それから王は、同様に、ブーツも履きたがったが、三人の巨人は、

    「だめです。わたしたちは、ブーツを渡すつもりはありません。もしそなたがブーツを履いて、丘の頂上へ、と願えば、わたしたちは、ここに残されることになる。遺産もすべて
    そなたとともにすっからかんだ。」

    と言った。王は、

    「まさか、そんなことはいたしません。」

    と言った。それで、三人の巨人は、ブーツも王に渡した。さて、今、王は、このすべての遺産を持っているときに考えていたのは、ただ、自分の妻と子どものことだけであった。王は、独り言のように、

    「ああ、金の山にいたらなあ。」

    と言った。その瞬間に、王は、巨人の目の前から消えていた。このようにして、巨人の遺産分配は幕を閉じた。さて、王が、自分の宮殿の近くにくると、喜びの声やバイオリン、フルートの音が聞こえてきた。人々は、王の妻はこれから別の人と挙式を行うのだと、王に言った。すると王は、激怒して

    「不実な女め。わたしを裏切り、見捨てるとは。眠っている間に!」

    と言い、マントを羽織った。見られることなく、王は、宮殿に入っていった。王が食事の間に入ると、ごちそうでいっぱいの豪華なテーブルが広がっていた。招待客たちは、食べたり、飲んだり、笑ったり、冗談を言ったりしている。女王は見事な装いで、冠を被って、皆の真ん中の王座に座っていた。王は、女王の後ろへ立った。誰にも見られてはいない。女王がお肉を食べようと、お皿にとると、王は、それを取って食べてしまった。女王がワインを飲もうとグラスに注ぐと、王がそれを取り上げて飲み干してしまった。女王が何かを取って食べようしても、何も食べることができなかった。というのも、お皿もグラスもぱっと消えてしまったからである。女王はうろたえてしまい、恥ずかしくなって、
    立ち上がり、自分の部屋へ行き、しくしく泣いた。しかし、王がそこについてきていた。女王は、

    「悪魔が思いのままにしているのでしょうか。救い主は来なかったのでしょうか。」

    と言った。すると、王は、女王の顔を殴りつけて言った。。

    「そなたの救い主は決して来なかったか、とな。そなたを思いのままにしているのは、このわたしだよ。この裏切り者が。そなたからこのような仕打ちを受けるとは。」

    それから、王は、姿を見えなくして、広間へ行き、大声で叫んだ。

    「挙式は終わりだ。本物の王が戻ってきたのだ。」

    と、ここに集まってきていた王や、王子、評議員たちは、王を嘲笑って、馬鹿にした。しかし、王は、相手にしないで、

    「出ていくのか、それとも、出て行かないのか。」

    と聞いた。これを聞いて、みんなが王をつかんで取り押さえようとした。が、王は、剣を抜いて

    「自分以外の首は、落ちよ。」

    と言った。すると、首は、みんな地面に転がって、自分一人だけが支配者となり、もう一度、金の山の王となった。

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