ガチョウの番をする娘

『ガチョウの番をする娘』の解説

  • タイトルガチョウの番をする娘
  • 著作者グリム兄弟
  • 書籍名ガチョウの番をする娘
  • 制作年?
  • 製作国不明
  • 言語不明
  • 著作権状態パブリック・ドメイン
  • 『ガチョウの番をする娘』の全文

    昔むかし、あるところに、年老いた女王様が住んでいました。女王様の夫である王様は、何年も前に亡くなってしまっていました。女王様には、とても美しいお姫様がいました。このお姫様は、とても遠い国にいる王子様と結婚することが決まっていました。結婚の日が近づいてきたとき、この年老いた女王様は、遠い異国へわが子を送り出さなければなりませんでした。そこで女王様は、お姫様のために、多くの宝物を用意しました。豪華な家具や金銀の食器類、宝石や衣装、十分な持参金などお姫様にふさわしいものをたくさん用意したのです。それは、女王様がお姫様をとてもとても愛していたからです。

    また、女王様は、わが子の旅のお供にと、ひとりの侍女をついて行かせることにしました。お姫様と侍女には、長旅のため、それぞれ1頭づつの馬が与えられました。王女様の乗る馬は、ファラダという名前で、この馬は言葉をしゃべることができたのでした。お別れのときがやってきたとき、女王様は、お姫様を自分の部屋へと連れて行きました。その部屋で、女王様は小さなナイフで自分の指を傷つけ、ハンカチの上に傷から流れ出た血を落としました。それは3滴の血でした。そのハンカチをお姫様に与え、旅の道中で必ずこれを大事にもっていること、そして必ず役に立つときが来る、と言いました。

    二人は、お互いにとても悲しい別れを告げ、お姫様は胸元に血のついたハンカチをしまい、馬に乗り、王子様の元へと出発しました。しばらく行くと、お姫様はとてものどが渇いてきたので、侍女に「馬を下りて、あなたが持ってきた私の金のカップを出してくれない?」と言いました。ところが、侍女は、「ご自分で馬を下りて、地面に腹ばいになって、じかに川の水を飲んだらどうですか。私はいつまでもあなたの侍女でいるつもりはありませんよ。」とそっけなく言いました。

    そこで、とてものどが渇いていたお姫様は、馬を降り、かがみ込んで水を飲みました。金のカップで水を飲むことは許されませんでした。お姫様が、「なんてことでしょう。」と嘆くと、女王の3滴の血がこう言いました。「このことを女王様がお知りになれば、心臓が二つに裂ける程悲しむでしょうに。」お姫様は、何も言わず、慎ましやかに馬に乗りました。

    さらに何マイルか馬で進んでいくと、この日の昼間はとても暑く、太陽が身を焦がすように照りつけていたので、お姫様は、また、のどが渇いてきました。お姫様は、ふたたび侍女に命じました。

    「馬を下りて、金のカップで水を汲んできてちょうだい。」お姫様は、以前に侍女の言ったひどい言葉をとうに忘れてしまっていたのです。侍女は、より一層いじわるな調子で、「水を飲みたいのなら、自分で飲みに行けばいいでしょ。私はもう侍女のままでいるつもりはありませんよ。」と言いました。あまりにのどが渇いていたので、王女であるにも関わらず、お姫様は、自分で馬を降り、流れる小川のそばにかがみこみ、涙を流しました。「ああ、なんてことでしょう。」すると、また、女王の3滴の血がこう言いました。「このことを女王様がお知りになれば、心臓が二つに裂ける程悲しむでしょうに。」

    お姫様が、地面にしゃがみこんで水を飲み、小川に体を傾けていたとき、女王様の3滴の血がついたハンカチが、胸元から滑り落ち、お姫様が気づかないうちに川の流れとともに、流れていってしまいました。お姫様の悲しみは、それほどまでに大きなものだったのです。ところが、これを見ていた侍女は、これでお姫様を自分の好きなように操ることが出来ると思い喜びました。それは、お姫様が、女王様の3滴の血のついたハンカチを無くしてしまったため、お姫様は弱く無力になったと知ったからです。

    侍女は、お姫様が、ご自分の馬であるファラダに乗ろうとしたとき、「ファラダは私のほうが似合っているのよ。あなたはこのちっぽけな馬で十分よ。」と言いました。お姫様は、侍女の乗っていた馬に乗るしかありませんでした。それから、侍女は、お姫様に自分の粗末な服と、お姫様の王室の服を、取り替えるように命じました。そして、とうとう、お姫様は、このことを神に誓って誰にも言わないということを、約束させられてしまったのです。もし、この約束をしなければ、その場で殺されてしまうところでした。しかし、ファラダはその一部始終をじっと見つめていました。

    今度は、侍女がファラダに乗り、お姫様は出来の悪いちっぽけな馬に乗ることになり、二人は旅を続け、ようやく異国の王宮へと到着することが出来ました。お姫様たちの到着は喜んで迎えられ、王子様が自分の花嫁を走り出て出迎え、侍女を馬から降ろしてあげました。王子様は、侍女が自分の花嫁であると思っていたのです。

    侍女は、王宮の階段へと案内されましたが、本物の花嫁であるお姫様は、王宮の外に立ったまま一人残されてしまいました。そのとき、年老いた王様が、窓から眺めており、お姫様が王宮の中庭にぽつんと立っているのを見て、その娘がとてもかわいらしく上品で美しいということに気がつきました。そこですぐ部屋へ行き、偽の花嫁に、「あなたと一緒に来て、今、中庭にたっている娘は誰なんだね?」と尋ねました。偽の花嫁は、「あの娘は、旅のお供に連れてきただけですわ。何もしないで遊んでいないように、仕事をさせてやってくださいな。」と言いました。

    しかし、年老いた王様には、その娘にさせる仕事を思いつくことができなかったのですが、いろいろと考えた末、「そうだ、ガチョウの番をしている少年がいるから、その手伝いをさせよう。」と思いました。お姫様は、コンラッドという名前の男の子を一緒にガチョウの世話をすることになったのです。

    到着後、偽の花嫁は、自分の夫となる王子様に、「お願いしたいことがございます。」と言いました。王子様は、「なんでも言ってごらん。」と言いました。そこで、偽の花嫁は、「では、誰かに頼んで、私が乗ってきた馬の首を切ってしまってくださいませ。旅の間、あの馬にはほとほと手を焼きました。」と頼んだ。でも本当は、自分がお姫様に何をしたかを馬が話してしまうかも知れないと恐れたからでした。

    偽の花嫁は、王子様に願い事を聞き入れてもらうことに成功し、忠実な馬、ファラダには首を切られる命令がくだされました。このことは、お姫様の耳にもはいったので、お姫様は、屠殺人に、こっそりとお願いをしました。

    「私のいうことを聞いてくれたら、あなたに金貨をあげるわ。」 この町には、暗い大きな門があり、そこを、お姫様は、朝夕にガチョウを連れて通らなければいけませんでした。「お願いだから、いつでもファラダに会えるよう、ファラダの頭をその門に釘でとめておいて欲しいの。」とお姫様は言いました。屠殺人は「そうするよ。」と約束し、首を切り落とすと、約束したとおり、頭を門にしっかりと釘で取り付けました。

    次の朝早くに、お姫様とコンラッドはガチョウの群れを追い立てて、この門の下を通りました。 そのとき、お姫様は、「ああ、かわいそうなファラダ」と呼びかけました。すると、ファラダは、「ああ、お姫様、なんとひどい目にあわれているのでしょう。このことを女王様がお知りになれば、心臓が二つに裂ける程悲しむでしょうに。」と言いました。

    それから、コンラッドとお姫様は、町からずっと遠く離れたところまで出かけ、草原へガチョウを放し追い立てました。牧草地へやってくると、お姫様は、草の上に座って、長い髪をほどきました。その髪は、輝く金色で、コンラッドはそれをみて、きらきらしているのが嬉しく思い、2,3本抜こうとしました。すると、お姫様は、「やさしい風よ、吹いておくれ、コンラッドの帽子を吹き飛ばして、コンラッドを私から遠ざけておくれ。わたしが髪を編んで束ねてしまうまで。」

    すると、突然風が吹いてきて、コンラッドの帽子を草原の遠くまで吹き飛ばしてしまいました。コンラッドは、帽子を追いかけていくしかありません。コンラッドが帽子を持って戻ってきたときには、お姫様は髪を整え、また束ねて結い上げ終わったところだったので、コンラッドはお姫様の髪を、一本も抜き取ることが出来ませんでした。コンラッドは機嫌が悪くなり、その後はお姫様に話しかけようともしませんでした。こうして、二人は夕方までガチョウの世話をし、家路に着きました。次の日も、またガチョウの群れを追い立てて、暗い大きな門の下を通りました。そのとき、お姫様は、「ああ、かわいそうなファラダ」と呼びかけました。すると、ファラダは、「ああ、お姫様、なんとひどい目にあわれているのでしょう。このことを女王様がお知りになれば、心臓が二つに裂ける程悲しむでしょうに。」と言いました。

    その日、またお姫様は草原に座り、髪をとかしていましたが、コンラッドが走り寄ってきて、お姫様の髪をつかもうとしました。そこでお姫様は大急ぎでこう言いました。「やさしい風よ、吹いておくれ、コンラッドの帽子を吹き飛ばして、コンラッドを私から遠ざけておくれ。わたしが髪を編んで束ねてしまうまで。」 すると、風が吹いてきて、コンラッドの帽子を遠くまで吹き飛ばしたので、コンラッドは帽子を追いかけていくしかありませんでした。コンラッドが戻ってきたときには、お姫様は髪を整え、また束ねて結い上げ終わったところだったので、コンラッドはお姫様の髪を、一本も抜き取ることが出来ませんでした。そうして二人は、夕方までガチョウの世話をしていました。

    しかし、二人が王宮に戻った夜、コンラッドは年老いた王様の元へ行き、「もうあの娘とガチョウの世話を一緒にするのはいやです。」と言いました。「どうしたんだね?」と年老いた王様はコンラッドに尋ねました。「だって、あの娘は、一日中私をいらいらと怒らせるのですよ。」とコンラッドは文句を言いました。年老いた王様は、いったいあの娘が何をしたのかを尋ねました。「朝、ガチョウと暗い門をくぐるとき、門の上に馬の首が取り付けられてあって、あの娘は、“ああ、かわいそうなファラダ”と呼びかけるのです。すると、その馬は、“ああ、お姫様、なんとひどい目にあわれているのでしょう。このことを女王様がお知りになれば、心臓が二つに裂ける程悲しむでしょうに。“と答えるのです。」とコンラッドは言いました。そして、コンラッドは、ガチョウを放牧している草原で起こったことや、自分が帽子を追いかけて走り回らなければいけないことを話しました。

    年老いた王様は、次の日もガチョウを連れて草原へ行くようにとコンラッドに命じました。朝が来ると、王様はこっそり門のところへ行き、お姫様がファラダに話しかけるのを聞きました。それから、王様も草原へ行き牧草地の藪の陰に隠れました。まもなく、お姫様とコンラッドがガチョウを連れてやってきました。しばらくして、お姫様が草の上に座り、髪をほどき、その髪がきらきらと美しく輝くところを王様は見ました。まもなく、お姫様は、「やさしい風よ、吹いておくれ、コンラッドの帽子を吹き飛ばして、コンラッドを私から遠ざけておくれ。わたしが髪を編んで束ねてしまうまで。」と言ったのです。

    すると、風が吹き、コンラッドの帽子をさらって飛んでいったので、コンラッドは遠くまで追いかけていかなければいけませんでした。その一方で、お姫様は髪を整え、また束ねて結い上げました。王様は、これをすべて見ていたのです。王様はそれからそっとその場を立ち去りました。王様は、帰ってきたお姫様をそばに呼び、どうしてこんなことをしているのかを尋ねました。お姫様は、「それは、どうしても言えません。私は、誰かに自分の悲しみを伝えることはできないのです。神に誓って誰にも言わないということを、約束させられてしまったのですから。もし、約束を破れば、私は殺されてしまうのです。」と言いました。

    王様は、何度も何度もお姫様に話すように言いましたが、お姫様からは何も聞き出すことは出来ませんでした。そこで。「私に何も話せないのであれば、そこにある鉄のストーブにお前の悲しみを話すといい。」と言って、その場を立ち去りました。お姫様は、泣きながら鉄のストーブの中にもぐりこみ、心にある悲しみを訴えはじめました。「私は、世間から見捨てられ、この王宮にいますが、本当は、私は王女なのです。心無い侍女が力ずくで、無理やり私の王家の衣装を脱がせたのです。そして、私と入れ替わって、今は王子様といっしょにいるのです。わたしは、ガチョウの番をする娘としてみすぼらしい仕事をするしかなくなりました。このことをお母様がお知りになれば、心臓が二つに裂ける程悲しむでしょう。」とお姫様は涙ながらに語りました。

    ところが、年老いた王様は、外にあるストーブの煙突のそばに立ち、お姫様の言うことをじっと聞いていたのです。それから、部屋に戻り、お姫様にストーブから出てくるように言いました。王様は、お姫様に王族の衣装を着せることにしました。王族の衣装を着たお姫様は、驚くほど美しい娘でした。年老いた王様は、王子様を呼び出し、本物の花嫁は、実はガチョウの番をする娘で、今そこに立っている、と告げました。王子様は、お姫様がとても若く美しい娘であるのを見て、心から喜びました。それから、家来や親しい友人たちを招く大きな宴会の準備が始まりました。

    食卓の上座には、花婿である王子様が座り、王子様をはさんで、偽の花嫁とお姫様が座りました。偽の花嫁は、まばゆい衣装を身にまとっている娘が、実はお姫様であることに全く気づきませんでした。それほどお姫様は輝いていたので、侍女は目がくらんでしまったのです。皆が食べたり飲んだりしてにぎやかに過ごしている時、年老いた王様は、偽の花嫁に、卑怯なやり方で、主人に接した人間には、どんな罰がふさわしいかを尋ねました。そして今まで起こっていることを全部たとえ話として、偽の花嫁に話しました。すると、この偽の花嫁は、「そんな人間は、丸裸にして、中に釘を打ち付けた樽に入れ、その樽を2頭の馬につなぎ、死ぬまであちらこちらへ引きずり回すのがよいでしょう。これ以上の罰はございませんわ。」と言いました。

    「それはお前のことだ。」と年老いた王様は言いました。「お前は、自分に与えられる罰を自分で言ったのだぞ。望みどおりの刑罰を与えよう。」侍女に重い刑罰が下されたあと、王子様は、本当の花嫁であるお姫様と結婚しました。そして、二人は平穏な生活を送り、幸せに国を治めたのでした。

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