天国へ行った仕立て屋

『天国へ行った仕立て屋』の解説

  • タイトル天国へ行った仕立て屋
  • 著作者グリム兄弟
  • 書籍名天国へ行った仕立て屋
  • 制作年?
  • 製作国不明
  • 言語不明
  • 著作権状態パブリック・ドメイン
  • 『天国へ行った仕立て屋』の全文

    ある晴れた日のこと。神様が散歩をしようと思いたった。神様は、すべての使徒と聖者をつれて行った。天国には聖ペテロただ一人が残った。

    神様はペテロに、自分が出かけている間は、誰も中に入れてはいけないと命じた。そこでペテロはドアの近くに立って注意して見張りをした。

    まもなく、誰かがコンコンとドアを叩いた。ペテロはそこにいるのは誰か、何が望みか、と聞いた。

    「わたしは貧しくて正直者の仕立て屋です。どうぞ、ここへ入れてください。」と、か細い声が答えた。

    ペテロは言った。「それはまことか。お前は手癖が悪くて、人の布地を切り取って盗んでいるではないか。お前は天国に入ってはいけない。神様は私に禁じているのだ。神様の外出中に、だれかを中に入れることをな。」

    仕立て屋はしつこく頼み込んで言った。

    「どうかお願いです。机から落ちた布の端切れを拾うのは盗みではありません。そんなことはどうでもいいではありませんか。見てください。わたしは、ここへ来るのに、足を引きずって歩きました。足にまめができて、もう引き返すことはできません。どうか入れてください、そのためなら、どんないやな仕事でもいたします。子供たちの世話もします。おむつも洗います。子供たちが遊んでいたベンチのふき掃除もします。子供たちの破けた服も繕います」

    聖ペテロは仕立て屋のことが気の毒になってきて、天国のドアを開けた。足が悪く、やせ細った体の仕立て屋がぎりぎり入れる幅だけ開けた。

    仕立て屋はドアの後ろの隅っこにおとなしく座っているように、言われた。神様が戻ってきたときに、仕立て屋に気づいてお怒りにならないように。

    仕立て屋はペテロに従って座っていたが、ペテロがドアの外へでていくやいなや、立ち上がった。好奇心いっぱいで、天国のあらゆるところを隈なく歩き回って、次々に見て回った。

    最後に仕立て屋は、たくさんの美しい高価な椅子があるところへやってきた。

    それらの椅子の真ん中には純金でできたきらきらの椅子がある。輝く宝石がちりばめられている。きらきらの椅子はほかのどの椅子よりもずっと高く、金の足台がその前に置いてある。

    神様がおられるときは、その椅子にお座りになるのだ。そこからの眺めときたら、地上で起こっていることが、すべて見えるのだ。

    仕立て屋はそのきんきらの椅子の前で立ち尽くして、しばらくじっと眺めていた。というのも、ほかのどれよりも、仕立て屋はその椅子をすっかり気に入ってしまったから。

    とうとう耐え切れなくなり、きんきらの椅子によじ登ってそこへ座った。

    そこから仕立て屋は、地上で起こっていることのすべてを、見た。ふと、醜いおばあさんが見えた。

    おばあさんは小川のほとりで洗濯をしている。なんと、おばあさんが、こっそり二枚のベールをわきへくすねている。仕立て屋はそれを見て腹を立て、きんきらの足台をつかんで、天国から投げつけた。

    年老いた泥棒女に投げつけた。投げてしまった足台を持ってきて元に戻すことができない。

    仕立て屋は、そうっと椅子から抜け出すと、元居た場所に座った。ドアの後ろの隅っこに。まるでどこにも行っていなかったようなそぶりをした。

    神様が天国のお供を引き連れてお帰りになったとき、神様はドアのうしろの仕立て屋に気づかなかった。

    でも、神様が椅子に座ったときに、足台が無かった。

    神様は聖ペテロに足台はどこへいったのかと、お尋ねになった。ペテロは、存じませんと答えた。

    神様は「ここへ誰かを入れたのか」と尋ねたので、ペテロは答えた。

    「ドアの後ろに座っている、足の悪い仕立て屋以外には天国の中にいた者はだれも知りません。」

    そこで神様は仕立て屋を自分の前へ来させた。足台を持って行ったかどうか、どこへやったか、仕立て屋に尋ねた。仕立て屋は、うれしそうに答えた。

    「神様、わたしは腹を立てて、足台を地上のおばあさんに投げつけたのです。おばあさんが川の側の洗濯場で2枚のベールをくすねていたのを見たのです。」

    神様は言った。

    「この、いたずら者め。お前にように裁いていたらこんなにも長い間お前はどうやってお前の罪を逃れてきた?わたしのところからは、とっくに椅子もベンチも暖炉の火かき棒でさえ無くなっているだろう。罪びとにすべてを投げつけてなにもかも無くなってしまう。お前はもう天国にいてはいけない。ドアから出ていかねばならない。どこでも好きなところへ行くがよい。ここでは、主なる神であるわたし以外、誰も人を罰してはいけないのだ。」

    ペテロは仕立て屋を再び天国のドアの外へ連れ出さなければならなかった。いぼだらけの足にボロボロの靴をはいて、杖を手にした仕立て屋が向かう先は、「ちょっと待って」というところ。そこでは、敬虔な兵隊たちが楽しく暮らしているそうな。

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