ホレおばさん

『ホレおばさん』の解説

  • タイトルホレおばさん
  • 著作者グリム兄弟
  • 書籍名ホレおばさん
  • 制作年?
  • 製作国不明
  • 言語不明
  • 著作権状態パブリック・ドメイン
  • 『ホレおばさん』の全文

    夫をなくしたあるご婦人には、二人の娘がいた。ひとりは美人の働き者。もうひとりは、醜い怠け者。醜い娘が実の娘だったため、母親はその娘を一番に可愛がった。

    美人の娘は、家の仕事をすべてさせられ、その家の家政婦のようにあくせく働いた。まいにちまいにち、そのかわいそうな娘は、道の井戸のそばに座って糸を紡ぐ仕事をした。指は血で滲むほど。ふと、糸巻きが血に染まってしまった。そこで娘は血を洗おうと井戸の中へ糸巻きを浸した。ところが、糸巻きは娘の手から滑りでて、井戸の中へ落っこちた。

    どうしたものかと、涙を流し、まま母のところへ駆け出した。糸巻きを落としてしまったと、まま母に告げると、まま母は容赦なく娘を叱りつけた。まま母がかんかんに怒って言ったのは、

    「おまえが落としたんだ、もういっぺん行って自分で取りな!」

    そこで娘はもう一度井戸へ戻って、どうしたものかと途方にくれて、やけを起こして飛び込んだ。糸巻きが行ったように飛び込んだ。

    娘が気が付いたときには美しい草原にいた。太陽はきらきら野花に照りつけ、野花は娘の周りで咲いている。娘は草原を通って歩き続けていくと、パン焼き窯のところへたどり着いた。窯の中はパンだらけ。パンが娘に言うことには

    「やあ、だしとくれ、出しとくれ。そうでなければ、焦げてしまう。とっくに焼き上がってるんだ。」

    そこで娘は近くへ寄って行ってパンを出す道具で、次から次へとすっかりパンを出してやった。娘はさらに遠くへと進んでいくと、一本の木のところへやってきた。木にはりんごがたわわ。重くて枝はぐらぐら。

    りんごが娘に言うことには、「やあ、揺すっておくれ、ゆすっておくれ。りんごはすっかり熟れているの。」

    そこで娘は木をゆすってやると、雨のようにりんごが降ってきた。さらに木をゆすってやると、もう落ちてくるりんごはなかった。娘は一山にりんごを集めると、もっと遠くへ歩いていく。すると、とうとう小さな家のところへたどり着いた。家からおばあさんがぎょろり。

    こちらをのぞいて、大きな歯ががちり。娘は怯えて、逃げ出そうとしたそのときに、おばあさんは娘を呼び止めた。

    「何を怯えているんだい、おじょうちゃん。ここへお住み。家事をしっかりして、言うことを聞いてくれたら、悪いようにはしないよ。まあ、わたしのベッドを整えるのは一筋縄ではいかないだろうけど。布団は徹底的にはたくんだよ。羽毛が飛んでいくようにね。そうすると世界中で雪が降るんだよ。なんてったってわたしはホレおばさんだよ。」

    おばあさんはやさしく話しかけてくれたので、娘は元気をだして、おばあさんに従って、さっそく仕事に取り掛かった。娘はおばあさんの思いの通り、なんでもやった。おばあさんが言った通りに布団をはたいた。羽毛が雪のようにちらちら舞うように。

    それからというもの、娘は快適に暮らした。いやみを言われることもない。ちゃんとした食事を毎日食べた。ホレおばさんと一緒に長いこと暮らしてきて、娘はふと、さみしい気持ちになってきた。自分の家にいるよりも、ここに居れば一千倍も幸せで暮らせる、けれども、家がとっても恋しくなった。とうとう娘はホレおばさんに打ち明けた。

    「わたしは家が恋しいんです。ここでとっても恵まれた暮らしを送っていますが、もうここには居られません。自分の家に帰らないと。」

    ホレおばさんが答えて言った。「そうだね。おまえさんはわたしに一生懸命尽くしてくれたし、そこまで送って行ってあげようね。」

    おばあさんは娘の手を取ってドアのところまで連れて行った。大きなドアが開いて突っ立っている。娘がそのドアを通り抜けると、はらはらと娘に金がたっぷりと降り注いできた。金は娘の体中にくっついた。娘の体は金できらきら。

    ホレおばさんは言った。「これは全部おまえさんのものだよ。まじめによく働いてくれたものね。」

    それに加えてホレおばさんは糸巻きも返してくれた。まさに井戸に落とした糸巻きとそっくり同じもの。それからドアはぱたんと閉まった。娘が気が付くと元の世界に戻っていた。自分のまま母の家の近くだ。

    庭を横切っていく途中で、にわとりが井戸の屋根に突っ立って叫んだは、「コケコッコー!きんきらの娘が帰ってきたっコー!」

    それから娘はまま母に会いに家に入った。きんきらになって戻ってきたものだから、娘は歓迎された。娘は自分に何が起こったのかをまま母に説明した。するとまま母は娘がどんなふうにしてお金持ちになったかを聞いて、醜い怠け者の実の娘にも同じ幸運を味合わせたいと思い始めた。

    そこでまま母は実の娘を井戸のそばへ座らせ、糸を紡がせた。醜い娘は糸巻きを血で染めるために、木のとげに手をのせた。そして糸巻きをポイっと井戸へ投げ入れ、自分もぴょんと井戸へ身を投げた。醜い娘は、気が付くと、美しい娘と同じように、みごとな草原にいた。話に聞いた同じ道を通って行った。と、パン焼き窯のところまでやってきた。ひしめくパンが叫んで言う。

    「やあ、出しとくれ、出しとくれ。でないと焦げてしまうんだ。とっくに出来上がっているんだ。」

    でも、根っからの怠け者はこう言った。

    「わたしの手が汚れちゃうじゃない。そんなのまっぴらごめんだわ。」

    そう言って先に進んで行った。すぐに醜い娘はりんごの木の前にやってきた。そしてりんごの木が言うことには、

    「やあ、ゆすっておくれ、ゆすっておくれ!りんごはみんなとっくに熟れてるの。」

    でも醜い娘はこう答える。

    「いいじゃないの。わたしの頭にりんごをぽこんとあててみたらどう?」

    悪口たたいて先に進んで行った。醜い娘はホレおばさんの家に着いた。がちがちの歯のことは、知っている。だから怖くもなんともない。さっそく仕事に取り掛かった。一日目、醜い娘はまじめに働いた。ホレおばさんが言ったように
    なんでもやった。きんきらに欲しさになんでもやった。でも二日目になると、醜い娘は怠け始めた。三日目はもっと怠けた。朝は起きようともしないで、ホレおばさんの布団を整えないし、布団を羽毛がひらひら舞うようにも、はたかない。

    そんな調子の娘にホレおばさんは愛想をつかした。これで帰れると、怠け者は喜んで、ついにきんきらがくるぞ、と思った。ホレおがばさんは醜い娘をドアのところへ連れて行った。

    醜い娘がドアを通り抜けるとき、降ってきたのは金ではなくて、真っ黒のべとべとが醜い娘の上に降ってきた。やかんにいっぱい入ってた真っ黒のべとべとは、からっぽになるまで降ってきた。

    「これはおまえがやってくれたことへのご褒美だよ。」

    ホレおばさんはそう言うと、ドアはぱたんと閉まった。怠け者の娘は真っ黒のどろどろになって家に帰ってきた。にわとりがその娘を見て、井戸の上で叫んだことは、

    「コケコッコー!どろんこ娘が帰ってきたっコー!」

    真っ黒のどろどろは醜い娘にべっとりくっついて、一生取れなかったんだと。

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