小クラウスと大クラウス

『小クラウスと大クラウス』の全文

昔、同じ名前の2人の男が住む村がありました。2人ともクラウスと呼ばれていました。そのうち1人は4頭の馬を持っておりましたが、もう1人は1頭しか持っていませんでした。ですので、村の人たちは4頭の馬を持つ方を『大クラウス』1頭しか持っていない方を『小クラウス』と呼び分けていました。さてこれから私たちは彼らに起こった事を聞くことになるのですが、これは本当の話です。

1週間を通して、小クラウスは大クラウスに1頭しかいない自分の馬を貸して、大クラウスのために田畑を耕していました。そして週に1度、日曜日だけは、大クラウスは4頭全ての馬を小クラウスに貸してくれました。小クラウスが5頭の馬たちにぴしゃりと鞭を打つと、馬たちはその日1日良く働いてくれました。正装をして聖書を手に持つ人たちが通り過ぎる時、輝く日差しは降り注ぎ、教会の鐘は陽気に鳴っていました。人々は聖職者の説教を聞きに行くところでした。彼らは小クラウスが5頭の馬たちと畑を耕し、誇らしげに馬たちに鞭打ち「そうれ!頑張れ、私の馬たちよ。」と言うのを見ました。

すると、「そんなことを言うな!」と大クラウスが言いました。「1頭だけがお前の馬だろう。」けれども、小クラウスは言われたことをすぐに忘れて、人が通った時に大声で「そうれ!頑張れ、私の馬たちよ」とまた言ってしまったのです。

「今度こそ、2度と言わないでくれ!」と大クラウスは言い、「もしも言ったら、お前の馬の頭を撃ち抜いてやる。その場に倒れておしまいだ。」

「もう2度と言わないと約束するよ。」と小クラウスはこたえました。そばを通りかかった人たちが会釈をして「良い1日を。」と言ってくれると彼は嬉しくなって、5頭の馬が自分の畑を耕しているのを見て、なんて素晴らしいんだと思い、また叫んでしまったのです。「そうれ!かんばれ俺の馬たちよ!」と。

「俺がお前のためにお前の馬たちにやる気を出させてやろう。」と大クラウスは言うと斧を掴むと小クラウスの馬の頭に振り下ろすと、馬はすぐに倒れて死んでしまいました。

「ああ、1頭の馬もいなくなってしまった。」と小クラウスは泣きながら言いました。けれどもしばらくすると、彼は死んだ馬の皮を剥ぐと、吊して風で乾かしました。それから、乾いた皮をカバンに詰めそれを肩にかけると、隣の町へと売りに出かけました。道のりは長く、暗く気味の悪い森を抜けなくてはなりませんでした。まもなくすると嵐が起こり、彼は道に迷ってしまいました。夕暮れ時になっても町への道のりはまだ長く、また夜になるまでに家に戻るにも遠すぎました。通りの近くに大きな農家がありました。外の窓は閉められてはいましたが、屋根の上の割れ目から光が漏れていました。「ひと晩ここに泊めてはもらえないだろうか。」と小クラウスは思いドアを叩きました。

農夫の奥さんがドアを開けましたが、彼の願いを聞くと、旦那さんが許さないだろうから、あっちへ行っておくれと言いました。「それならば、この外にいます。」と小クラウスが言うと、農夫の奥さんはピシャッとドアを閉めました。農家の近くに大きな干草の山があり、それと家の間に小さな茅葺き屋根の小屋がありました。

「あそこで休める。」と小クラウスは言い屋根を見ると、「素晴らしいベッドが作れるぞ。だけど、コウノトリが飛び降りてきて足をつつかないといいんだけどな。」屋根の上にはコウノトリの巣があり、コウノトリが立っていたのです。小クラウスは小屋の屋根に登り、体をひねって楽にした時、閉まっている木の扉に気づきました。そこからは農家の部屋の大きなテーブルに、ワインや焼いた肉、それに見事な魚が置いてあるのが見えました。

農夫の奥さんと教会の寺男は、一寺男の好物ばかりが並ぶテーブルに一緒につき、奥さんが寺男のグラスをワインで満たし、魚を取り分けていました。「ああ、少しでも食べられたならなぁ。」と小クラウスが思って、首を目いっぱい窓まで伸ばすと大きな素晴らしいパイを目にしました。実に、彼らの前には素晴らしいご馳走が並んでいました。

ちょうどその時、誰かが農家に向かって道を下って行く音が聞こえました。農夫が家に帰ってきていたのです。農夫は善良な人でしたが、未だ変な偏見を持っており、教会の寺男を見るのも嫌だったのです。もしも彼の前に現れようものならば、ものすごい勢いで激怒するでしょう。そういうことから、教会の寺男は農夫が留守の間に農夫の奥さんを訪ね、善良な奥さんは最高のもてなしで彼を迎えていたのでした。農夫が帰ってきたのがわかると奥さんはギクリとして、寺男を部屋に置いてある空の大きな箱に入って隠れるよう頼みました。寺男は農夫が自分を認めていないことを知っていたので、隠れることにしました。それから奥さんはワインを片付け、残っているご馳走をかまどの中に隠しました。もしも農夫がそれらに気づけば何のために買ったのかと聞くでしょう。

全てのご馳走が消えてしまうのを納屋のてっぺんから見ていた小クラウスは「あれまぁ。」と音を立ててしまったのです。

「そこに誰かいるのか?」と農夫は見上げると小クラウスを見つけたのでした。「どうしてお前はそんなところにいるんだ?降りてきて俺と一緒に家に来るんだ!」小クラウスは降りて来ると農夫に、道に迷ったのでひと晩泊めてほしいと頼みました。

「いいだろう。だが俺たちはまずは何か食べなくっちゃいけない。」と農夫は言いました。

奥さんは2人をとても優しく招き入れると、テーブルに大きなクロスを広げ、おかゆを置きました。農夫はとてもお腹が空いていたのでおかゆをペロリと食べました。ですが、小クラウスはかまどの中にあるおいしそうな焼いた肉や、魚やパイを考えずにはいられませんでした。テーブルの下の彼の足元には、隣の町で売るつもりでいた馬の皮の入ったズタブクロが転がっていました。もう小クラウスにはおかゆを味わうことが出来ませんでした。そこで、彼がテーブルの下のズタブクロを足で踏みつけると、乾いた皮はかなり大きくキュキュっと鳴りました。「しーっ!静かに!」とズタブクロに向かって小クラウスは言うと、同時にもっと大きくキュキュっとなるまで踏み続けました。

「おい!そのズタブクロに何が入っているんだ?」と農夫が聞きました。

「あぁ、魔法使いです。」と小クラウスは言い、「魔法使いは私たちはおかゆなんて食べなくたって良いと言っています。魔法使いは魔法でたくさんの焼いた肉と、魚とパイをかまどから出すと。」

「素晴らしい!」と農夫は叫び歩き出すと、かまどを開けました。するとそこには、農夫の奥さんが隠した見事なご馳走の全てが置いてありました。本当にテーブルの下の魔法使いが魔法で出したものなのだろうか?奥さんはあえて何も言わずに彼らの前にご馳走を置くと、2人は魚に肉、それにパイを食べました。

小クラウスが再びズタブクロを踏みつけると前と同じようにキュキュっと鳴りました。「魔法使いは今度は何と言っているんだい?」と農夫は聞きました。

「彼は言っています。」小クラウスはこたえました。「私たちのためのワインが3本、かまどのすぐそばにある。」

すると奥さんは、自分で隠したそのワインを持って来るように言われ、農夫はご機嫌になるまでワインを飲みました。農夫は小クラウスの持つような魔方使いが欲しくなりました。「魔法使いは邪悪なものを魔法で出せるのかい?」と農夫は聞くと、「俺は気分の良い今のうちにそいつに会いたいんだよ。」

「はい、もちろんです。」小クラウスはこたえました。「私の魔法使いは願うものは何でも出してくれます。なぁ?そうだろう?」と聞き、ズタブクロがキュキュっとなるまで踏みつけました。「聞きましたか?魔法使いは『はい』とこたえています。けれども彼は、私たちは見ない方が良いのではないかと心配しています。」

「なぁに、俺は恐れてなんかいないぞ?どんなやつなんだい?」

「ええっと、そいつはまるで教会の寺男のようです。」

「何だって!」と農夫は言い「そうすると醜いに違いないな。俺がそいつの姿を見るのが耐えられないって知っているかい?しかしながら、その心配には及ばない。俺はそいつを見ようと気にしないさ。さあ、それじゃ、勇気を出して、だけど俺に近づけすぎるな。」

「待って、魔法使いに聞いて見なければ。」小クラウスは言うと、ズタブクロを踏みつけてかがみこみ、耳を近づけて聞きました。

「彼は何と言っているんだ?」

「あなたは角に置いてある、あの大きな箱まで行ってその箱を開けなければならない。そうすれば、中にうずくまっている邪悪なものが分かるでしょう。けれども、あなたは彼が抜け出さないように、しっかりと箱の蓋を抑えていなければなりません。」

「こっちに来て、蓋を抑えるのを手伝ってくれるかい?」と農夫が言うと、農夫の奥さんが隠した大変怯えた教会の寺男が入っている箱に近づいて行きました。農夫は箱をほんの少しだけ開けると中を覗きました。

「うわ。」と農夫は叫び後ろに飛び跳ねました。「彼を見たぞ。まるで本当に我々の教会の寺男のようだ。何と恐ろしい!」そのあとまた飲み直そうと言うので、夜遅くまで飲んだのでした。

「お前さんの魔法使いを売ってくれ。」と農夫は言うと、「お前さんが欲しいだけの金を払うから、そうだ、升いっぱいの金貨をやろう。」

「いや、でも出来ないな。」と小クラウスは言いました。「この魔法使いが、どれだけの得になるかを考えてみると。」

「しかし魔法使いが欲しいんだ。」と農夫は言い、お願いし続けました。

「じゃあ。」と小さなクラウスはついに言うと、「ひと晩泊めてもらったし、断りきれないよ。升いっぱいの金ならこの魔法使いを渡すのに不足はないよ。」

「なら、そうするかい?」と農夫は言い、「おまけにその箱を持ち去ってくれ。まだそこいるかもしれないかと思うと、いっときだって、うちに置いていたくないんだ。

そこで、小クラウスは乾いた馬の皮の入ったズタブクロを農夫にやると、代わりに十分な金を受け取りました。農夫は箱と金を運ぶために手押し車も渡しました。

「さよなら。」と言うと小クラウスは、お金と、まだ寺男の隠れている大きな箱と一緒に出て行きました。森のそばまで来ると、広く深く、流れに逆らって泳ぐのは難しそうな急な流れの川がありました。最近架けられた新しい橋を渡っていると、その真ん中で小クラウスは立ち止まって言いました。寺男に聞こえる程の大きな声で、「さてと、このバカバカしい箱をどうしようかな。石が詰まっているように重すぎてもうこれ以上運ぶには疲れてしまう。だから川の中に投げ捨ててしまおうか?うちまで泳いでいけたら結構だし、そうでなくてもどうってことはないな。」

そう言うと、水の中へ投げ入れるかのように箱を掴み少し持ち上げました。

「いや!やめてくれ。」と箱の中から寺男は叫び、「まず出してくれ。」と言いました。

「わぁ。」と叫ぶと小クラウスは怖がったふりをしました。「まだこの中にいるのかい?川に投げ入れていたら溺れるだろうな。」

「ちょっと待て。ちょっと待て。」と寺男は叫びました。「逃がしてくれたら升いっぱいの金をやるよ。」

「なぜですか?それでは話がわかりません。」と小クラウスは言うと箱を開けました。寺男は這い出ると、空っぽの箱を川の中へ捨てると、家に帰りまた戻ると、小クラウスは升からあふれる程たくさんの金を渡されて、農夫からすでに受け取っていたものと合わせると手押し車にいっぱいになりました。

「俺の馬は報われた。」と小クラウスは彼自身に言い聞かせました。家に着き部屋に入ると床はお金の山で埋め尽くされました。「どうやって1頭の馬でこんなに金持ちになったのかを大クラウスが知ったらどんなにイライラするのだろうか。だけど絶対に教えてなんかやらないぞ。」それから、彼は升計りを借りるために大クラウスの元に小僧をよこしました。

「やつはこれを何に使おうってんだ?」と大クラウスは思い、何か使ったものが残るのではないかと考え、計りの底にヤニを塗りつけました。すると計りが帰ってくると、3枚の新しい銀貨がひっついているではありませんか。

「一体どうなっているんだ?」と大クラウスは言い家を飛び出すと、まっすぐに小クラウスの家へ向かい聞きました。「お前はどこでそんなに金を手に入れて来たんだ?」

「あぁ、昨日自分の馬の皮を売って来たんだ。」

「それでそんなに稼いだのか?」と大クラウスは言うと自分の家に走って戻り、斧を掴むと彼の4頭の馬全て殴り殺し、それらの皮を剥ぎ、その皮を持って隣町に売りに行きました。

「皮〜皮だよ。皮はいらんかい〜?」と通りを行きながら叫びました。靴職人たちや皮職人たちが走り寄って来て、いくらするんだい?と聞きました。

「1頭につき升1杯分の金だ。」と大クラウスはこたえました。

「お前おかしいんじゃないのか?」と彼らは叫び、「俺たちが升いっぱいの金を払うと思ってるのか?」

「皮だよ。皮!」と彼が再び叫び、「さぁ、誰が買うんだい?」しかし、値段を聞くと「升いっぱいの金だ。」と大クラウスのこたえ。

「やつは俺たちをバカにしてるんだよ!」と彼らは言うと、靴職人たちは革ベルトを、皮職人たちは皮の前掛けを掴みと大クラウスを打ち付け始めました。

「皮だよ、皮!」と彼らは大クラウスをあざ笑いました。「よし、お前の皮に印をつけてやる、アザになるまでな。」

「町から皮と一緒に出て行け!」と彼らは言いました。大クラウスは出来る限り早く走り去りました。かつてこんなに打ちのめされたことはありませんでした。

「ああ。」家に帰り着いた彼は言いました。「小クラウスめ、このお返しはさせてもらうぞ。死ぬまで打ち付けてやる。」

その間に、小クラウスのおばあさんが死んでしまいました。彼女は彼に対して怒りっぽく、冷たくて本当に意地悪でした。
それなのに、彼は彼女の死が残念でならなく彼女を引き取り、もしも再び生き返らせることが出来たならばと、彼の暖かいベッドに寝かせていました。彼女をベッドにひと晩寝かせて、前からよくしていたように彼自身は部屋の角にある椅子に座って過ごすことにしました。彼がそこに座っている夜の間に、ドアが開き、大クラウスが斧を持って入って来ました。彼は小クラウスのベッドがどこにあるのかをよく知っていましたので、ベッドまで上手くたどり着くと、彼のおばあさんの頭を打ちつけました。それが小クラウスだと疑わずに。「そら見ろ!」と彼は叫び、そして「もう俺をバカにできないな!」と言うと家に帰って行きました。

「なんとひどい人だ。」と小クラウスは思い、「やつは俺を殺そうとしたんだな。おばあさんはもう死んでいたから良かったけど、生きていたならば、おばあさんを殺していたんだぞ。」それから、おばあさんに一番良い服を着せるとご近所から借りた馬を荷馬車に使いました。落ちないように、後ろにおばあさんを乗せ、森を通り抜けました。夜明け前に大きな宿に着くと止まり、何か食べるためにそこへ入りました。その宿主は金持ちなうえに良い人でしたが、香辛料と嗅ぎタバコでできているような激しい気性の人でした。

「おはよう。」と彼が小クラウスに言うと、「今日がまだ早いうちに来ましたな。」

「はい。」と小さなクラウスは言い、「私は祖母と町へ行くつもりです。彼女は今荷馬車の後ろに座っています。ですが彼女を部屋の中へ連れては行けないので、グラスいっぱいの蜂蜜酒を持っていってもらえませんか?ただ、彼女は耳が遠いので、大きな声で話しかけてもらえますか?」

「はい、そのようにいたします。」と宿主はこたえると、グラスに蜂蜜酒を注ぎ入れ、荷馬車の上に座る死んだおばあさんの元へと持って行きました。「お孫さんから頼まれた蜂蜜酒をお持ちしました。」と宿主は言いましたが、死んでいる彼女がこたえるはずはありません。ただ静かに座っているだけです。「聞こえませんか?」と家主はできる限りの大声で叫びました。「お孫さんから頼まれた蜂蜜酒をお持ちしました。」

なんども大声で叫びますが、彼女がじっとしているだけですので、カッとなった彼は、グラスをおばあさんの顔に向かって投げつけました。するとグラスはおばあさんの鼻に当たり、結ばれずにただ座っていただけの彼女は荷馬車の後ろに落ちてしまいました。

「おい!」と大声で叫びながら小クラウスはドアの外へ飛び出して来て、宿主の喉元に掴み掛かり、「おばあさんを殺したのか!みろ!おでこに大きな穴があいているじゃないか!」

「ああ、なんという不運。」と宿主は言い、自分の手を握りしめていました。「私の気性のせいでこんなことになってしまいました。ねぇ、小クラウスさん、升いっぱい分の金を渡すよ。そして自分のおばあさんとして埋葬するよ。黙ってていてくれないかい?そうでなければ、頭を落とされるかだろうが、それは本当に嫌だ!」

そういったわけで、小クラウスはまた別に升いっぱいの金を受け取りました。そして宿主は、おばあさんを自分のおばあさんとして葬りました。小クラウスは再び家に戻るとすぐに、大クラウスの元へ、升計りを貸してもらうようにと、小僧を送りました。「これはどういうことだ?」と大クラウスは思いましたが、升計りを渡してやりました。「どうやってこの金を手に入れたんだい?」と大クラウスが尋ねると、大きく見開いた目で隣人のお宝をまじまじと見たのでした。

「お前は私の代わりに私のおばあさんを殺したんだよ。」と小クラウスは言い、「だから彼女を升いっぱいの金で売ったのさ。」

「なんてことだ!」と大クラウスは言いました。そして家に戻ると、手斧を手に取り、自分のおばあさんを殺しました。それから、荷馬車に彼女を乗せ、町の薬屋まで馬車を走らせました。そして、死人の体を買ってくれるかと尋ねたのです。

「それは誰だい?どこで手に入れたんだい?」と薬屋は聞きました。

「これは私のおばあさんです。」と大クラウスはこたえ、「俺が殴り殺したんだ。だから、升いっぱいの金をもらえるはずだ。」

「どんでもない!」と薬屋は叫びました。「何考えてるんだ!そんなことを言うなんて。それとも正気じゃないのかい?」真剣に彼に、彼のした酷い行いは罰せられる程の事なんだと教えました。大クラウスはとても恐ろしくなり、処置室から飛びだすと、荷馬車に飛び乗り、馬を鞭打ち、家へと急いだのでした。

薬屋とその周りの人たちは皆、彼は気が狂っているのだと思い、好きなところへ行かせたのでした。

「この仕打ちのお返しをしてやる。」と大クラウスは大通りに入るとすぐに、「待ってろよ小クラウスめ。」と言い、家に着くなり、見つけた一番大きな袋を持ち小クラウスの元へ向かいました。「よくもからかってくれたな。」と言い、「初めは、自分の馬全てを殺させ、次に祖母を殺させた。全てお前の仕業だが、もうそんなことはさせないぞ。」そして、小クラウスを捕まえると、持って来た袋の中に押し込みながら言いました。「さあて、これからお前を川に沈めてやる。」

川までは長い道のりでしたが、小クラウスは軽かったので運びやすいものでした。またその道は教会に繋がっていたので、オルガンの音色と人々の美しい歌声を聞きながら通り過ぎました。大クラウスは袋を下ろすと教会の扉の近くに置き、遠くへ行く前に教会に入って賛美歌を聴くのが良いと思ったのでした。小クラウスはなんとか袋から出ようとしましたが出来ずにいました。人々はみな教会の中にいました。

「大変だ、大変だ」と、袋の中の小クラウスはため息をつき、ひねったりくねったりしながら結ばれた紐を緩めようとしましたが、それが出来ないことに気づきました。

やがて、手に大きな荷物を運ぶ白髪の老人が、大きな牛の群れと一緒に彼のそばを通りました。彼らは、小クラウスの入った袋につまずくとそれをひっくり返しました。「なんてことだ。」と小クラウスは嘆きました。「天国に行くには私はまだ若すぎる。」

「そして俺は、貧乏人さ。」と牛飼いは言いました。「俺はとっくに天国に行くような歳だが、まだ行くことができない。」

「袋を開けておくれよ。」小クラウスは叫ぶと、「俺の代わりにこの中に入っていてくれないか?そうすれば、すぐに天国に行けるだろう。」

「喜んでいたしましょう。」と牛飼いはこたえると、袋を開けました。小クラウスはそこからできるだけ早く飛び出しました。「俺の牛たちの世話をお願いできるかい?」と老人は言うと、袋の中へと入ったのでした。

「はい。」と小クラウスは言い、袋を縛ると、牛たちを連れてそこから歩き去りました。

教会から出てきた大クラウスは、その袋を持ち上げると肩に担ぎました。なんだか少し軽くなった気がしました。牛飼いの老人は小クラウスの半分の重さしかなかったのでした。

「どうしてこんなに軽く思えるんだろう?」と大クラウスは言いましたが、「ああ、俺が教会へ行ったからに違いない。」そして川まで歩き続けると、川幅が広く、深いところで、牛飼いの老人の入った袋を、小クラウスが入っているものだと信じて川の中へと投げ入れました。「そうら、これでおさらばだ!」と大声で叫ぶと、「これでもう俺をバカにできないぞ。」そして、家へと道を戻り、2つの道が交差する場所まで来ると、どういう事か小クラウスが牛を連れているではありませんか。「どうしたことだ!」と大クラウスは言い「たった今お前を溺れさせたんじゃなかったか?」

「ああ。」と「半時ほど前に川に投げ込まれたさ。」と小クラウスは言いました。

「だけど、そんなに良い家畜をどこで手に入れたんだい?」と大クラウスは聞きました。

「これらの家畜は海のものなんだ。」と小クラウスはこたえました。「全てを話そう、それに、溺れさせるために沈めてくれた事に感謝するよ。今や、君より金持ちさ。そりゃ、袋に入ったまま君に橋から投げ落とされた時に聞いた風の音は本当に恐ろしかった。そしてすぐに川底まで沈んで行ったんだ。だけど、怪我をすることもなく、美しく柔らかい草の上に落ちたんだ。すぐに袋が開くと、真っ白いワンピースを着て濡れた髪には緑の葉の髪飾りを乗せている、可愛らしく小さな少女が私に近づいてきました。彼女は私の手を取ると言いました。「ようこそ、ここに来られました、小クラウス。まず初めに、この数頭の牛をお渡しします。1マイルほど離れた道の上には、あなたのためにまた別の家畜の群れがいます。」それから私は、川が海の中に住む人たちの大きな道なのだと知りました。人々はあちらこちらへ、川を海から陸への移動場所として、歩いたり、運転したりしています。川の中の寝床は、愛らしい花々と甘く新鮮な草で覆われています。魚は空を飛ぶ鳥のように早く私のそばを過ぎていきます。人々は皆、なんと顔立ちの良いことか、そして家畜たちはなんと素晴らしく丘の上や谷間の草を食んでいたことか!」

「だがどうして、そこからまた上がってきたんだい?」と大クラウスが言うと、「もしそこがそんなにも素晴らしいところなら、俺なら、ずっといるぞ。」

「ああ。」と小さいクラウスは言い、「それは私にとっての良い考えなんです。君が今私から聞いた事は、海の少女から教えられた事です。1マイル離れた道まで行くと、大きな牛の群れを見つけるだろうと。少女が言う道は川の事だが、彼女は他の道では進めずにいた。けれども時には右へ、時には左へ行き川幅と深さを知った私は道の長さを知り、そこで、私は距離の短い道を選び、陸へ上がり、そこからまた川へ戻るために畑までの道を行きましたが、半マイルを削り、家畜を早く手にすることが出来ました。

「なんて幸運なやつなんだ!」大クラウスは叫びました。「もし俺が川の底まで行ったならば、海の牛を得ることが出来ると思うかい?」

「ああ、そう思うよ。」と小クラウスは言い「けれども君を袋に入れてそこまで連れて行くことはできないんだ。君は重すぎるからね。しかし、まず最初にそこへ行き、そのあと袋の中に入れるのならば、喜んで、川へ投げ入れるよ。」

「ありがとう。」と大クラウスは言い「だが覚えておけ、そこで俺が海の牛を得ることが出来なければ、上がってきて、たっぷりと鞭打ちをしてやるからな。」

「いいえ、今はそのことで、カッとならないで下さい。」と小クラウスは言い、2人は川へ向かい歩きました。川まで着くと、喉が乾いた牛たちが、川の流れを見つけ走り下りていました。

「みろ!もう居るぞ!」と小クラウスは「牛たちはまた川底へ降りて行きたいと思っている。」と言いました。

「来て手伝え、イライラさせるな。鞭で打たれたいのか?」と大クラウスは言いました。それから彼は大きな袋の中へ入ると1匹の雌牛の後ろに置かれました。

「石を一緒に入れろ、でないと沈まないかもしれない。」と大クラウスは言いました。

「ああ、その心配は無用。」と小クラウスはこたえると、大きな石を袋の中に入れると、きつく縛り、それを押しました。

「パシャン!」大クラウスは川の中へ入るとすぐに底まで沈みました。

「残念ながら、彼は牛を見つけられないと思うよ。」と小クラウスは言うと自分の牛たちを連れて家へと戻って行きました。

『小クラウスと大クラウス』の解説

  • タイトル小クラウスと大クラウス
  • 書籍名小クラウスと大クラウス
  • 著作者ハンス・クリスチャン・アンデルセン
  • 制作年?
  • 製作国不明
  • 著作権状態パブリック・ドメイン
  • 更新日
  • 投稿日