貧乏男と金持ち男

『貧乏男と金持ち男』の解説

  • タイトル貧乏男と金持ち男
  • 著作者グリム兄弟
  • 書籍名貧乏男と金持ち男
  • 制作年?
  • 製作国不明
  • 言語不明
  • 著作権状態パブリック・ドメイン
  • 『貧乏男と金持ち男』の全文

    昔々、神がまだ地上にいる人間たちの間をお歩きになられていたころのお話です。神はその日の宿に到着する前にすっかりお疲れになり、暗闇も押し迫ってきました。さて、神の目の前の道の両側に、二軒の家が向かい合って建っておりました。一つは大きくて見た目も美しい家、もう一つは小さくみすぼらしい家です。

    大きい方は裕福な男が所有しており、小さい方は貧乏な男のものでした。そこで神は思いました。

    「裕福な者には私が世話になってもあまり負担ではないだろう。彼の家で夜を過ごそう」

    金持ち男は、何者かがドアをノックする音が聞こえると、窓を開けて見知らぬ男に何か用事かと尋ねました。神は「一晩の宿をお願いしたいのです」と答えました。

    金持ち男はその旅人の頭のてっぺんからつま先まで見ると、神は普通の服を着ており、ポケットにお金をたくさん入れているようには見えずに、彼は首を振り言いました。

    「いいや、あなたを泊めることはできません。私の部屋は薬草と種でいっぱいでして。それにもしうちの扉を叩く者を皆泊めていたら、私がすぐに物乞いをして歩かなければいけません。どこか他をお探しなさい」

    こう言うと窓をぴしゃりと閉め、神をそのまま立たせておきました。

    それから、神は金持ち男に背を向けると、道を渡って小さな家の扉を叩きました。彼がほとんど何もしないうちに、貧乏な男は小さな扉を開け、旅人を中に呼び入れました。

    「私と共に夜を過ごしましょう。もう外は真っ暗です」彼は言いました。「今夜はもうどこへも行くことはできませんよ」

    神はこれに喜び、中へ入りました。貧乏男の妻は神の手を握ると、歓迎しました。ゆっくりくつろぐように、そして大したものがなくて我慢してほしいと言いました。彼らには旅人に提供できるものがあまりないけれども、精いっぱいのおもてなしをします、というのでした。

    それから、彼らはジャガイモに火を入れました。煮ている間にヤギの乳も搾り、少しのミルクが取れました。布が敷かれ、神は夫婦と席につきました。そして彼らが準備した質素な食事を楽しみました。食卓には幸せな顔がありました。彼らは夕食を済ますと寝る時間になり、妻は主人を別に呼ぶと言いました。

    「ねえ聞いて、あんた。今夜は私たちは麦わらのベッドをこしらえて寝ましょうよ。そしてあの可哀想な旅人さんには私たちのベッドで寝てもらいましょう。そうすればゆっくり休めるでしょう。きっと一日中歩き通しだったらすごく疲れたでしょうからね」

    「そのとおりだね」と主人は答えました。「彼のところへ行って話してくるよ」

    そういうと、旅人のところへ行き,もし嫌でなかったら自分たちのベッドで休んで手足をゆっくり伸ばして寝るようにと、招いて言いました。しかし神は年老いた二人から彼らの寝床を取るのは気が進みませんでした。ところが彼らは納得せずに結局神は彼らベッドで休みました。そして二人は地面の上に敷いた麦わらのベッドに横になりました。

    翌朝、彼らは日が昇る前に起き、お客にできる限りの素晴らしい朝ご飯を準備しました。太陽の光が窓を通して差し込んできたころ、神は起床しました。再び老夫婦と共に朝食を食べ、旅に出る準備をしました。

    神が扉のところに立ち、振り返り言いました。「あなた方はとても親切に良くしてくださった。あなたが三つ願えば、私は叶えます」すると主人は言いました。「永遠の幸せを除いて他に何を望むでしょう。あとは、私たち二人、生きている限り健康で毎日パンを食べられますように。三つめは、何を望めば良いか分かりません」

    すると神は言いました。「この古い家の代わりに新しい家はいりませんか?」「おお、そうですね。できることならば、新しい家に住んでみたいです」神は彼の望みを叶え、古い家を新しい家に替え、神のご加護を彼らに与えると、旅を続けました。

    太陽が高く昇り、金持ち男が起床し窓から身を乗り出しで外を見ると、道の反対側、古小屋があった場所に、新しく見た目にもきれいで赤いタイルと輝かしい窓の付いた家が建っていました。男はそれはそれは驚いて、妻を呼ぶと言いました。「教えてくれ、なにが起こったんだ?昨晩はあそこにみすぼらしい小さな小屋が建っていたのに、きょうは新しく美しい家が建っている。行ってきて何が起こったのか見てきてくれないか」

    それで妻は貧乏男ところへ行き、尋ねました。すると彼は金持ち男の妻に言いました。「昨日の晩に旅人がここへ来て、一晩泊めてほしいと頼まれたのです。朝出発するときに、願いを三つ叶えると。それで永遠の幸せを願って、健康であることと、毎日パンを美味しく食べられることを願いました。その上に、古い小屋を新しい家に替えてくれたのです」

    金持ち男の妻はこれを聞くと、急いで帰り、夫にどのように物事が起こったかを話しました。男は言いました。「自分を粉々にしてやりたいくらいだ!それを知っていたなら!あの旅人は我が家にも来て、ここで眠りたいと言ったんだ。それを追いやってしまった!」

    「急いで!」男の妻は言いました。「馬に乗って!まだ旅人を捕まえられるわ、そうしたら三つの願いを聞いてもらうよう頼まなければ!」

    金持ち男はこの助言に従って、馬に乗って駆けだしました。そしてまもなく神に追いつきました。男は神に、やさしく快く話しかけ、遠回しに寝床を貸さなかったことを悪くとらないようにとお願いしました。正面玄関のカギを探していて、しばらくしたら旅人がいなくなってしまっていた、もし同じ道を通って帰るのならば、その時は立ち寄って泊るようにと言いました。

    「はい」と神は言いました。「もし再び戻ったら、そうしますよ」そのあと金持ち男は、隣人にした同じ三つの願いを叶えてくれるかどうか神に尋ねました。

    「良いでしょう」と神は言いました。しかしそれではあまり男の得になりません。何も望まない方が良いのです。しかし金持ち男は、幸せであることに加えて、叶ったことが分かりさえすれば、何か簡単にお願いできるものをと考えました。そこで神は男に言いました。

    「馬に乗ってお帰りなさい。そうしたら、言葉に出した三つの願いが叶うでしょう」

    金持ち男はもはや、願いを増やしていました。馬で帰路に向かうと、願うべきことを考え始めました。男が考えていると、手綱を落としてしまい、馬が跳ね回りました。そのため思考を引き続き邪魔されてしまい、考えが少しもまとまりませんでした。男は馬の首をさすり、「落ち着け、リサよ」と声をかけましたが、更にふざけるばかりでした。すると男はついに怒り出し、我慢できずに大声で叫びました。

    「お前の首など折れてしまえ!」男ははっきりと言葉に出したので、馬は崩れ落ち、横たわって死んでしまい二度と動きませんでした。このようにして男の一つ目の願いは叶いました。かれは欲深い性分だったので、馬具をそこに置いたままにしたくはありませんでした。そこで男はそれを切り取ると背負い、今度は歩いて行かねばなりませんでした。「まだ二つ残っている」男はそう考え、自分を慰めました。

    男がゆっくりと砂漠を歩いていると、正午には太陽がカンカンと照りだし、体がかなり暑くなり腹も立ってきました。サドルが当たって背中を傷め、そのため何を願えばよいかまとまりませんでした。

    「世界中の富と財宝が手に入れられればなあ」と一人で考えました。「そういうことは後から考えるべきことだ。それは分かっているんだ。その前に、願い事が後で残らないように何とかするんだ」

    そして、ため息をついて言いました。「もし私が野蛮な小作農で同じように三つの願いを叶えてもらうなら、何をしてもらうかはっきり分かるがなあ。一つ目は多めのビール、二つ目は飲めるだけ多くのビール、三つめは樽一つ分のビールをお願いする」

    男は、長い時間考えてその考えに至りましたが、結局彼にはあまりにもちっぽけな願いでした。すると突然に男の妻が気楽な暮らしをして、涼しい家で楽しんでいることが頭に浮かびました。この為に男は苛立たしく思うと、気づく前に声に出して言ってしまいました。

    「あいつはこの馬の鞍にでもずっと座っていればいい、そして降りることができないのだ。そうすれば私が代わりに背負わなくてよいのだ」すると、最後の言葉が話されると同時に馬の鞍が男の背中から消えました。こうして男は二個目の願いが叶うのを目の当たりにしました。

    すると男は心から興奮を感じたのでした。男は駆け出し、家に着くと自分の部屋で完全に一人きりになり最後の望みを考えたいと思っていました。しかし男が家に着き居間の扉を開けると、男の妻が部屋の真ん中で、馬の鞍にまたがり泣きながら文句を言っているのを見たのでした。全く降りることができないのです。

    「我慢していろ、そうすればお前のために世界中の富をすべて得られる。お前はそこにいればよいのだ」

    しかし妻は男を馬鹿呼ばわりして言いました。「私がこの鞍の上にいたとしたら、世界中の富が私に何をしてくれるというの?私にその願いを使って、私はほったらかしに違いない」 

    そこで男は、助けるか助けないかということになり、三つめの願いを、妻が鞍に座ることを止めるというものにせざるを得ませんでした。そしてすぐに馬の鞍を降りることができ、すぐに願いは叶ったのでした。そうして男は、いらだちと揉め事と悪口と馬の喪失以外に、何も得ることはできませんでした。

    しかし貧乏男は、幸せに静かにそして信心深く暮らし、幸せな最期を迎えました。

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