蛙の王子

『蛙の王子』の解説

  • タイトル蛙の王子
  • 著作者グリム兄弟
  • 書籍名蛙の王子
  • 制作年?
  • 製作国不明
  • 言語不明
  • 著作権状態パブリック・ドメイン
  • 『蛙の王子』の全文

    昔々、まだ人の願いが力を持っていた頃、ある王国に、王と、その娘たちが住んでいた。王の娘たちはみな美しかったが、末の娘は特に美しく、光り輝くようなそのかんばせは、太陽すらも驚かせるほどだった。王の城の近くには薄暗い森があり、森の古いライムの木の下には井戸があった。暑い日になるとこの末の姫は森に出掛け、井戸の横で涼んで過ごした。

    退屈すると、姫は金の鞠を取り出し、鞠を高く放り投げては受け止めて遊んだ。この遊びは姫の一番のお気に入りだった。

    だがある時、金の鞠は待ち受けていた姫の小さな手をこぼれ落ち、地面を転がると、真っ逆さまに井戸へと落ちてしまった。姫は井戸を覗きこんだが、井戸は大変に深くて、底は真っ暗で何も見えなかった。姫は泣き出し、その泣き声は大きくなる一方で、全く泣き止む気配がなかった。そうして嘆き悲しんでいると、誰かが「如何なされたか、姫君?石すらも悲しませるようなお嘆きよう」と言う声が聞こえた。姫が声の聞こえてきた辺りを見回すと、井戸の水面から、蛙が太く醜い首を伸ばしていた。

    「まあ!老いた水の生き物、今のはあなた?」

    姫は言った。「わたくしが泣いていたのは、井戸に金の鞠を落としてしまったからです」

    「泣くのを止めて、静かにされよ」蛙は言った。

    「あなたをお助けして、鞠をあなたのお手に戻して差し上げることはできるが、褒美に何をいただけましょう?」

    「あなたのお望みのものを、蛙さん」

    姫は応えた。「わたくしの服、真珠、宝石、この金の冠すら差し上げましょう」

    「あなたのお召し物も、真珠も、宝石も、金の冠もいりはしない。だがあなたの愛がほしい。私をとわの伴侶とし、友人とし、あなたと共に金の食器で食事をし、ちいさなカップで飲み物を飲み、共に眠りに就くことを誓っていただけるなら、井戸の底に潜って、あなたの金の鞠を取って来て差し上げよう」

    「よろしくてよ」姫は言った。「全てお誓いします。だからわたくしの金の鞠を拾い上げて、わたくしの手に取り戻してください」だが姫の心の内は違った。「愚かな蛙が何を言うのかしら!水の中で蛙仲間と暮らしている者が、人間の伴侶になれる訳がないでしょう!」

    だが蛙は誓いの言葉を聞くやいなや、頭を下にして潜って行き、すぐに金の鞠を咥えて戻って来て、草の上に鞠を放り投げた。姫は美しい金のおもちゃが戻ってきたことに歓喜した。そして、それを拾い上げると、逃げ出したのだった。「お待ちください」蛙は言った。

    「わたしをお連れ下さい。わたしはあなたほど速くは走れない」だがどんなに声をからして叫んだところで、がぁがぁと言う鳴き声がどれほど役に立つだろう?姫はその声を無視して、城に逃げ帰ると、井戸に戻るしかなかった可哀想な蛙のことは、すぐに忘れてしまった。

    次の日、姫が父親の王と、国中の民と食卓に着いて、金の食器で食事を採っていると、何かがぱちゃぱちゃ、ぱちゃぱちゃと大理石の大階段を這いのぼって来た。それは階段をのぼりきると、扉を叩き、大声で叫んだ。「姫君、末の姫君、この扉を開けてください」

    姫は扉に駆け寄り、誰が外に来たのか確かめた。だが扉を開けて見てみると、正面に座っていたのはあの蛙だった。姫は力一杯扉を閉めると、急いで夕餉の席に戻ったが、恐れおののいていた。王は姫が明らかに、激しく動揺していることを見てとって尋ねた。

    「娘よ、何をそんなに怯えているのか。お前を攫いに巨人でもやって来たのか?」

    「いいえ、おとうさま」姫は応えた。「巨人ではありません。気持ちの悪い蛙なのです」

    「蛙がお前になんの用があると言うのかね?」

    「ああおとうさま、昨日森の井戸の傍に座って金の鞠で遊んでいた時、わたくしは鞠を井戸に落としてしまったのです。わたくしがあまりに泣いていたので、蛙が鞠を拾い上げてくれたのですけれど、その代りにわたくしは蛙をわたくしの伴侶にすると誓わなければならなかったのです。でも蛙は井戸から出られぬだろうと思っていましたのに!今扉の外まで来て、中に入れてほしいと言うのです」

    姫が応える間に二回目のノックがあり、大きな声がした。

    「姫君、末の姫君!扉を開けてください!昨日冷たい泉の横で、誓った言葉をお忘れか?姫君、末の姫君!扉を開けてください!」

    すると王が言った。

    「誓いは守られねばならない。蛙を中に入れなさい」姫は歩いて行って扉を開けた。すると蛙はぴょんと、中に跳び込んできて、姫の後に着いて歩いて、姫の椅子の横までやって来た。蛙はそこで立ち尽くすと、懇願した。

    「わたしを持ち上げて、あなたの横に座らせてください」姫はぐずぐずしていたが、とうとう王が姫にそうするよう命じた。椅子に座らせてもらった蛙は、今度はテーブルの上にあげてほしいと言った。そしてテーブルの上に乗せてもらうと、次はこう言った。「さあ、その金の皿をこちらへ寄せてください。そうすれば共に食べることができましょう」

    姫は応じてやったが、嫌々ながらなのは明らかだった。蛙は夕餉を楽しんだが、姫は一口食べるごとに、喉が詰まるようだった。ようやく食事を終えると、蛙は言った。「満足しました。わたしは疲れてしまいました。私を部屋へ連れて行き、絹の寝床を用意してください。共に眠りに就きましょう」

    姫は泣き出した。触りたくもない冷たい蛙が恐ろしかったし、いまやその蛙と彼女の美しく清潔なベッドで寝なければならないのだ。だが王は怒りを募らせて、言った。

    「お前を助けてくれた者を侮辱するとはなにごとだ」仕方なく姫は蛙をつまみあげると、階段をのぼって自分の部屋へ連れて行き、部屋の隅に蛙を置いた。だが姫がベッドに入ると、蛙は這い寄って来て、言った。「疲れているので、あなたと同じようによく眠りたい。ベッドに入れて頂きたい。でなければ、父君に言いつけます」それを聞いた姫は烈火のごとく怒りだし、蛙を掴むと、力の限りを振り絞って、彼を壁に叩きつけた。

    「これで静かになったわ。憎たらしい蛙め」だが蛙が地面に落ちた時、蛙はもはや蛙ではなく、美しく優しい目をした王子になった。

    姫の父に許された蛙は今、姫の愛する夫になった。それから王子は、自分がどのように悪い魔女に魔法をかけられたかを語り、姫が現れるまで、誰一人として彼を井戸から救い出すことが出来なかったことを語り、夜が明けたら彼の王国へ共に行こうと語った。それから彼らは眠りに就き、朝の光で目覚めると、頭をダチョウの羽根で飾り、金の馬具をつけた、八頭の白い馬に曳かれた馬車が迎えにやって来た。その横には、王子の忠実な僕、ヘンリーが控えていた。この忠実な僕は、王子が蛙に変えられたことを嘆き悲しみ、胸が張り裂けぬよう、胸に三本の鉄のベルトを巻いていたのだった。

    王子の故国までは道案内が必要で、忠実な僕ヘンリーは前に立ち、後に立ちして旅を助けながら、王子が救われた喜びに胸を一杯にしていた。旅の半ばまで来た時、王子は何かが壊れたような、ばしっと言う音を聞いた。王子は後ろを振り向いて、大声で言った。「ヘンリー、馬車が壊れたようだ」

    「いいえ、殿下。馬車ではありません。弾けたのは、殿下が蛙にお姿を変えられ、井戸の中に囚われた時、悲しみのあまりわたしが胸に巻いた、鉄のバンドです」

    その後何度も、何かが壊れる音が聞こえる度、王子は馬車が壊れたかと思ったが、それはただ、彼の主人が自由の身となり、幸せになったことで胸が一杯になった忠実な僕ヘンリーの、胸のバンドが弾ける音だった。

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